婚約者を信じる王太子と、誰よりも賢く気高い未来の王太子妃。その愛と覚悟が試される物語!
「王太子殿下を夢中にさせて、もっといい暮らしを手に入れちゃおう!」
そんな調子で貴族学院の男子生徒たちに近づく男爵令嬢カルラ。彼女は自分の可愛さに絶対の自信を持ち、相手の家柄も婚約者の有無もお構いなし。ついには王太子ヴェンツェルにまで目をつけてしまいます。
普通の異世界恋愛ものなら、ここから婚約者を差し置いた恋愛騒動が始まり、婚約破棄だの浮気だのと大騒ぎになるところでしょう。
しかし、この物語はひと味違います。
なぜなら、ヴェンツェルには、幼いころから支え合ってきた婚約者エルヴィーラがいるからです。
しかも、この二人、ただ仲のよい婚約者同士というだけではありません。
相手を信じ、必要なことはきちんと話し合い、ときには耳の痛い忠告も受け入れる。そんな関係を築いているのです。
国王からカルラの調査という密命を受けたヴェンツェルは、まず何を考えたのか。
「婚約者に、どこまで話すべきか」
ここがもう、たまりません!
王命だからと何もかも秘密にして、婚約者を不安にさせる道を選ぶのではない。自分が別の令嬢に近づけば、エルヴィーラが周囲からどんな目で見られるのかまで考え、正直に事情を説明しようとするのです。
もちろん、エルヴィーラだって何も感じないわけではありません。婚約者がほかの女性と親しくするのですから、心穏やかでいられるはずがない。
それでも彼女は、感情に振り回されるのではなく、王太子妃となる自分の役割を見据えて協力を申し出ます。
この二人のやり取りが、本当に素敵なのです。
相手を信頼しているからこそ、我慢を一方的に押しつけない。信頼しているからこそ、相手の意見を聞く。そして、相手の判断を尊重する。
甘い言葉を並べるだけではない、将来の国王夫妻にふさわしい関係が、物語の序盤からしっかり描かれています。
そして、読んでいて思わず「エルヴィーラ様、格好いい……!」と声に出したくなるのが、彼女の立ち居振る舞いです。
王太子がカルラと親しく話すようになれば、周囲の令嬢たちは当然ざわつきます。
心配するふりをして反応をうかがう者。婚約者を奪われたと決めつけて嘲笑する者。エルヴィーラが取り乱すのを期待して、わざと噂を持ち出す者。
いやあ、いますよね、こういう人たち!
相手を心配しているような顔をしながら、実際には他人の不幸や失態を期待している人。言葉だけは丁寧でも、その裏にある意図は別のところにある人。
しかし、エルヴィーラは簡単には動じません。
相手の言葉だけでなく、視線や態度、会話の流れまで観察し、その人が何を考えているのかを見極めようとします。
ただ耐えているわけではありません。何も考えずに笑って受け流しているわけでもありません。
自分が将来、王太子妃として国を支える立場になることを理解し、そのために必要な判断を積み重ねているのです。
この、表面上は穏やかでありながら、内面ではしっかりと相手を見定めている姿が実に頼もしい!
そして、そんなエルヴィーラの存在があるからこそ、物語は単なる「勘違い令嬢が王太子に近づいて失敗しました」という話では終わりません。
カルラ自身は、確かに問題の多い人物です。
裕福な男性と親しくなれば自分の暮らしがよくなる。王太子と仲良くなれば、婚約者より自分を好きになってくれるかもしれない。自分は可愛いのだから、それくらい当然だと思っている。
けれど、彼女の行動を見ていると、貴族社会の常識を知らないことと、他人の立場や気持ちを考えようとしないことが、少しずつ重なっているのがわかります。
そんな彼女がエルヴィーラを「能面みたい」「ヤな女」と陰で罵る場面は、物語の大きな転換点です。
とうとう本人に聞かれてしまったカルラ。ここで素直に謝罪できれば、まだ違った展開もあったのでしょう。
しかし、彼女は自分の言葉を反省するどころか、「思ったことを言っただけ」と主張します。
さあ、ここからどうなるのか。
エルヴィーラを侮辱されたヴェンツェルが怒りを覚えるのも当然です。婚約者を守りたいという気持ちも伝わってきます。
けれど、この物語の面白いところは、そこで王太子が怒りのままに相手を断罪して終わり、とはならないこと。
ヴェンツェル自身もまた、王族としての判断を試されているのです。
相手に非があるからといって、どんな罰を与えてもよいわけではない。自分の怒りを満たすことと、王太子として適切な判断を下すことは違う。
エルヴィーラは、そのことを婚約者にきちんと伝えます。
しかも、ただ彼を責めるのではありません。何が問題なのかを説明し、間違いを正し、本人が自分で考え直せるように導いていくのです。
ここが本当に気持ちいい!
有能な婚約者という設定は数あれど、相手を支えるとはどういうことなのかを、これほど明確に示してくれるヒロインは頼もしいものです。
そしてヴェンツェルも、彼女の言葉を受け止めます。
自分が間違えることなどないと思い込むのではなく、誤りを認め、改めることができる。そこにこそ、未来の国王として成長する姿があるのです。
もちろん、カルラの処遇にも注目です。
最終的に彼女には三年間の修道院奉仕が命じられます。ただし、物語ではこれを犯罪に対する刑罰ではなく、貴族社会における礼儀を学び直し、侮辱に対する社会的な責任を取るための措置として描いています。
自分の言動がどんな結果を招くのか。周囲が何度説明しても理解しようとしなかったことが、ついに自分自身の生活を変えてしまう。
カルラが不満を訴えても、父親の男爵は娘を無条件に庇ってはくれません。
「自分の言葉には責任を持ちなさい」
この言葉には、思わずうなずいてしまいました。
そして、物語の締めくくりでは、ヴェンツェルだけでなく、側近候補たちにもそれぞれ評価が下されます。
命令に従うだけではなく、その意図を考えられるか。自分の行動が周囲に及ぼす影響を想像できるか。秘密を守りながら、大切な人との信頼関係も守れるか。
王太子と王太子妃、そして未来の王宮を支える者たち。それぞれの立場に応じた課題があり、試練の結果も一律ではありません。
ここには、単純に悪役をやっつけて終わりというだけではない、王国を担う人々の成長物語があります。
そして何より、最後まで読んで感じるのは、ヴェンツェルとエルヴィーラの相性のよさです。
彼は彼女を信頼し、彼女は彼の誤りを正すことを恐れない。彼はその忠告を受け入れ、彼女もまた、彼が成長していく姿を支えていく。
ただ甘やかし合うのではなく、互いをよりよい人間へと導いていく関係なのです。
王太子と未来の王太子妃に必要なのは、身分や能力だけではない。人をどう扱い、何を守り、間違えたときにどう改めるのか。
そんな大切なことを、二人の試練を通して感じさせてくれます。
婚約者を信じる王太子が好きな方、有能で気高い令嬢が好きな方、そして身勝手な振る舞いがきちんと本人に返ってくる「ざまぁ」が好きな方。
ぜひ、この二人の最終試練を見届けてください。
読み終えたときにはきっと、こんな王太子夫妻が治める国なら、これからも安心して見守っていけそうだと思えるはずです。
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