静かに格の違いを見せつける、痛快な貴族社会のざまぁ物語
「婚約破棄した相手が、実はとんでもない大物だった」
なろう系の異世界恋愛やざまぁが好きな人なら、この展開に心を躍らせる方も多いのではないでしょうか。
本作『直系を馬鹿にして、ただで済むとでも?』は、まさにそんな期待を満たしてくれる作品です。ただし、主人公が怒り狂って相手を罵倒したり、派手な魔法で敵を吹き飛ばしたりするタイプの物語ではありません。
主人公のマドレーヌは、周囲からどう見られようと、自分の立場を疑わない公爵令嬢。妹ばかりを可愛がる母親、妹に心を寄せる婚約者、自分を見下す学院の令嬢たち。そんな人々に囲まれていても、彼女は驚くほど冷静です。
そして、この冷静さこそが、本作の最大の魅力なのです。
■「可哀想な令嬢」のつもりで見ていたら、とんでもない勘違いだった!
物語の序盤では、妹のニコレットが周囲から愛され、姉のマドレーヌが孤立している様子が描かれます。
ニコレットは母親に溺愛され、父親からも贈り物を与えられる人気者。一方のマドレーヌは、淡々と本を読み、学業に励み、領地経営の勉強を続けています。
周囲の令嬢たちは、そんな二人を見て勝手に結論を出します。
妹は愛されている。姉は愛されていない。だから、妹こそが公爵家の後継者になるのだろう、と。
さらに、マドレーヌが名乗る「シャトリエ伯爵」という爵位を、彼女たちは公爵家の後継者から外された証拠だと思い込みます。
ところが、ここが大きな落とし穴!
シャトリエ伯爵位は、デュパルク公爵家の後継者が名乗る爵位だったのです。
つまり、彼女たちが「公爵家を継げない可哀想な長女」として見下していたマドレーヌは、最初から正統な後継者。祖父母も父親も、彼女を嫡子として扱い、次期当主に必要な教育を施していました。
周囲が勝手に誤解していただけで、マドレーヌの立場は何ひとつ揺らいでいなかったのです。
この構図が実に気持ちいい!
本人の価値が低かったのではなく、周囲の見る目がなかった。しかも、彼らは自分たちの憶測を確かめようともせず、勝手に見下していたのですから、後になって真実を知ったときの衝撃もひとしおです。
■婚約破棄の場面で分かる、主人公の格の違い
そして、やってくる婚約破棄。
婚約者のリュカは、マドレーヌが公爵家を継げないと思い込み、より有益な縁を求めて妹のニコレットを選ぼうとします。
普通なら、ここは主人公が怒り、涙を流し、相手に撤回を迫るような場面でしょう。
しかし、マドレーヌは違います。
婚約を解消したいのは相手なのだから、了承する。それだけです。
この潔さがたまりません。
彼女は婚約者に執着していません。自分を選ばなかったことそのものを恨んでいるわけでもありません。婚約者としての責任を果たす相手なら結婚するつもりだったけれど、相手が自分の意思で関係を終わらせるなら、それまでのこと。
ただし、相手が誤った認識を前提に自分の立場を判断したことについては、話が別なのです。
「あなたが何を捨てたのか、後から知っても遅いですよ」
この一言が、後々になって効いてきます。
負け惜しみだと受け取るリュカ。しかし読者には分かっています。彼が本当に失ったものの大きさを、彼自身だけが理解していないのです。
この、主人公と読者だけが真実を知っているような感覚。ざまぁ作品好きには、たまらないおいしさではないでしょうか。
■感情任せに怒鳴らないからこそ、報復が重い!
本作のざまぁが面白いのは、主人公が自ら復讐に走るのではなく、デュパルク公爵家という巨大な家門が動くところです。
祖父のレナルド、祖母のヴィクトワール、そして父のジェラール。彼らはマドレーヌを嫡子として認め、その立場を守るために必要な判断を下します。
ここで重要なのは、彼らが単に身内を甘やかしているわけではないこと。
婚約解消そのものは、リュカの自由です。しかし、公爵家の継承について調べもせず、誤った思い込みをもとに嫡子を軽んじたことは別問題。そこで公爵家は、契約や取引、宮廷での推薦など、マルベール伯爵家との関係を改めて精査します。
法や契約に従って、これまで当然のように受けていた恩恵を見直す。その結果、相手は社交界での立場や将来の縁談、進路にまで影響を受けていくのです。
これぞ、貴族社会ならではのざまぁ!
剣を振るう必要も、派手な処刑を行う必要もありません。相手が自らの判断で失った信用と、それに伴う不利益が、じわじわと積み重なっていきます。
しかも、公爵家は無差別に報復するわけではありません。子どもを諫め、家として謝罪した者にはやり直す機会を与える一方、問題を軽視し、責任を認めない家には厳しく対応します。
この筋の通った姿勢が、公爵家の格を際立たせています。
ただ強いだけではない。力を持ち、その力をどう使うべきか理解している。そんな一族だからこそ、彼らが本気で動いたときの説得力が違うのです。
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