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夢見る仔猫の雑記帳

創作サイト『夢見る仔猫』の雑記帳

理性的な魅了魔法の使われ方

愛されていないと思い込んでいた公爵令嬢。まさかの「魅了魔法」の正体と、家族の愛情が尊すぎる!

「妹ばかりが愛されている」「自分は家族に愛されていないのではないか」

そんな切ない思い込みから始まる本作。ところが、読み進めていくと、姉妹格差に見えたものの正体も、タイトルにある「理性的な魅了魔法」の意味も、想像とはまったく違う方向へ転がっていくのです。

これは、愛されていないと思い悩む公爵令嬢と、彼女を大切に思うあまりに盛大なすれ違いを起こしてしまった家族の物語。そして、一般的なイメージとはひと味違う、魅了魔法をめぐる異世界ファンタジーでもあります。

◆愛されていないと思い込むジュリエンヌの切なさ

主人公のジュリエンヌは、公爵家の長女にして王太子レアンドルの婚約者。将来の王妃にふさわしい淑女となるべく、幼いころから厳しい教育を受けてきました。

一方、十歳年下の妹シャルロットは、両親や兄弟、使用人たちから溺愛されています。甘いお菓子を楽しみ、家族と庭で過ごし、我が儘さえも許される妹。その姿を目にするたび、ジュリエンヌの心には疑問が膨らんでいきます。

どうして自分は、あんなふうに甘えられなかったのだろう。

どうして妹ばかりが、あんなにも愛されているのだろう。

ジュリエンヌだって、家族から愛されていなかったわけではありません。勉強を頑張れば褒められ、立派な淑女になれると期待され、婚約が決まったときには家族全員が喜んでくれました。

けれど、幼いころから厳しい教育を受け、王太子妃になるために努力し続けてきた彼女にとって、妹との待遇の差はあまりにも大きかったのです。

しかも、ジュリエンヌは王宮での妃教育を終えて帰宅しても、家族とのお茶の時間には加われません。疲れているだろうから休ませてあげようという母の配慮が、彼女には家族から遠ざけられているように感じられてしまう。

ここが本当に切ない!

愛情がないから厳しいのではなく、愛情があるからこそ厳しくしている。しかし、その理由を知らない本人には、愛情そのものが見えなくなってしまっているのです。

ジュリエンヌは妹を可愛がっているからこそ、そんな妹に嫉妬してしまう自分を責めます。家族を恨みたいわけでも、妹を嫌いになりたいわけでもない。ただ、自分だって甘えたかった。自分だって、無条件に可愛がられたかった。

この気持ちが、彼女の疑念をいっそう深めていきます。

◆まさかの魅了魔法! 疑いの矛先は妹から自分自身へ

そこでジュリエンヌが思いついたのが、魅了魔法の存在でした。

あれほど家族や使用人から溺愛されているシャルロット。もしかすると、彼女は無意識に魅了魔法を使っているのではないか。

もしそうなら、王太子であるレアンドルまで魅了されてしまうのではないか。

政略的な婚約である以上、自分でなければならない理由はない。そんな不安に駆られたジュリエンヌは、筆頭魔術師に相談することになります。

ところが、ここからが本作の面白いところ!

魅了魔法の使い手は、妹のシャルロットではありませんでした。

なんと、魅了魔法を使っていたのはジュリエンヌ本人だったのです。

この展開、思わず「そっちだったの!?」と声が出そうになります。

しかし、さらに興味深いのは、彼女の魅了魔法が一般的なものとはまったく異なる作用をしていたこと。

通常の魅了魔法は、使い手の私利私欲を満たすために他者の理性を奪い、使い手だけが利益を得る危険な魔法です。だからこそ禁忌とされてきました。

ところが、ジュリエンヌの魅了魔法は違います。

彼女を愛する者たちは、彼女の望みを叶えようとする。ただし、その望みは自分だけの幸福ではありません。立派な淑女になりたい。将来の王妃として責任を果たしたい。家族や大切な人々に幸せでいてほしい。

そうした願いが、周囲の人々をより良い方向へ動かしていたのです。

◆家族の愛情が深すぎる! 善意が生んだ盛大なすれ違い

本作の醍醐味は、真相が明かされた後の家族側の事情にあります。

ジュリエンヌが厳しい教育を受けていたのは、家族が彼女を大切に思っていなかったからではありません。むしろ、愛しすぎていたからこそ、彼女の望みを叶えようとしていたのです。

三歳になるころ、ジュリエンヌは「お姫様になりたい」と願いました。

家族はその言葉を、王族に嫁ぎ、王妃になることを望んでいるのだと受け止めます。そして、愛しい娘の夢を叶えるため、最高の教師を揃え、必要な教育を受けさせました。

もちろん、厳しい教育そのものが彼女を苦しめたことは事実です。しかし、家族にとっては、ジュリエンヌの将来を守るための愛情表現だったのです。

さらに、妹のシャルロットを甘やかしていたのも、姉であるジュリエンヌの妃教育を妨げないため。疲れているだろうからとお茶の席から遠ざけたのも、休息を与えたいという配慮からでした。

全部、愛情。

全部、善意。

なのに、本人には伝わっていない!

このすれ違いが、何とももどかしく、そして微笑ましいのです。

家族はジュリエンヌを愛している。ジュリエンヌも家族を愛している。それなのに、互いを思いやる気持ちが、かえって心の距離を生んでしまっていた。

誰かが悪意を持って陥れたわけでも、妹が姉の地位を奪おうとしたわけでもありません。だからこそ、真相が明らかになったときの安堵感が格別なのです。

◆王太子の恋心まで魅了魔法のせい?

そして、恋愛ものとして見逃せないのが、レアンドル王太子の存在です。

厳しい妃教育に励むジュリエンヌにとって、講義の後に設けられる王太子とのお茶の時間は、何よりの慰め。彼は彼女の努力を認め、苦労を分かち合い、優しく労わってくれます。

ただでさえ、こんな相手がそばにいたら心強いもの。互いに苦労を理解し合える関係というのが、また良いのです。

そして、魅了魔法の真相を知った王太子が気にすることといえば……。

自分のジュリエンヌへの恋心は、本当に自分自身のものなのか?

これまで彼女の一番近くにいて、彼女を支えてきたレアンドル。そんな彼の恋心にまで魅了魔法が関わっているのかどうかは、恋愛好きなら気になるところでしょう。

その疑問に対する答えも含め、王宮でのやり取りには思わず頬が緩みます。王太子としての責任を果たそうとする真面目さと、ジュリエンヌへの想いを抱える年頃の青年らしさ。その両方が見えるのも魅力です。

◆読み終えれば、家族の愛情にほっこりする一作

本作は、姉妹格差への不満や家族から愛されていないという不安を入口にしながら、最後には家族の深い愛情と、言葉にしなければ伝わらない思いを描き出します。

魅了魔法というファンタジー要素を使いながら、その根底にあるのはとても人間的なテーマです。愛しているから厳しくする。大切だから距離を置く。相手のためを思って選んだ行動が、必ずしも相手の望む形で伝わるとは限らない。

そして、愛情は与える側の自己満足だけでは完成しないのだということも、自然と感じさせてくれます。

ジュリエンヌが家族に甘えられなかった時間は戻りません。それでも、誤解が解け、家族の本心を知り、これまで遠慮していた甘え方を覚えていく彼女の姿には、温かな気持ちになります。

悪役への断罪や華々しいざまぁを楽しむタイプの物語とは少し違いますが、誤解が解けていく爽快感、愛されヒロインの尊さ、そして周囲の人々の愛情が明らかになる幸福感は、なろう系異世界恋愛やヒューマンドラマが好きな方にぴったり。

何より、タイトルの「理性的な魅了魔法」という言葉が、読み終えた後にはまったく違った意味を帯びてくるのが見事です。

愛されていないと思い込んでいた公爵令嬢が、実は周囲から愛されすぎていた。

そんな、優しくて微笑ましい大逆転を楽しめる短編です。

家族愛に癒やされたい方、すれ違いから始まるハッピーエンドが好きな方、そして「魅了魔法」と聞けば一波乱を期待してしまう方は、ぜひジュリエンヌの物語を読んでみてください。

読み終えたときにはきっと、彼女がこれから家族にたくさん甘えられることを願わずにはいられないでしょう。

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