ざまぁのその先にあるもの――この国、法律で全部解決します!
婚約破棄! 断罪! お家乗っ取り! 継子いじめ! 欲しがり妹! 白い結婚! そして乙女ゲームの悪役令嬢!?
異世界恋愛やざまぁ系を読んでいると、一度は見かけたことのあるおなじみの展開。普通なら「はいはい、またそのパターンね」と思うところですが、この作品はひと味違います。
何しろ、この国には、そういうことをやらかした人間を取り締まるための法律があるのです!
しかも、法律の数が尋常ではありません。
公衆の面前で婚約破棄を宣言したら即座に捕縛。証拠もないのに断罪劇を始めれば、こちらも捕縛。王子だろうが高位貴族だろうが、権力を振りかざして好き勝手できると思ったら大間違い。
現場に颯爽と現れるのは、王国特殊法監督局の取締官たち。
「元第三王子カジャル、王国特殊法違反により捕縛する!」
……いや、早い早い!
おなじみの卒業パーティーでの婚約破棄が、まさかの即時逮捕で幕を開けるのです。
しかも、処罰されるのは当事者だけではありません。教育を怠った親にも責任が及び、加担した側近やその実家まで処罰対象。王族だから特別扱い、なんてこともありません。
これですよ、これ!
やらかした本人だけが罰を受けて終わりではなく、なぜそんなことが起きたのか、その責任はどこにあるのかまで追及してくれる。いつものテンプレ展開を知っているからこそ、「そこも責任を取らせるのか!」と膝を打ちたくなります。
そして、物語は婚約破棄だけにとどまりません。
母を亡くした令嬢が父と継母、義妹に虐げられ、家まで乗っ取られそうになるお話では、全寮制の魔導学院が思わぬ役割を果たします。
実は、令嬢の身の回りを世話するメイドも、学院のあちこちにいる職員も、特殊法監督局と関係があるのです。
虐待の証拠を集め、屋敷に潜む精霊の協力まで得て、いざ強制捜査!
「俺はナハブ伯爵様だぞ!」と喚く父親に突きつけられるのは、そもそもお前は伯爵ではない、という容赦のない事実。
爵位も財産も自分のものだと思い込み、正当な後継者を虐げてきた者たちが、次々と罪を突きつけられていく展開は実に爽快です。
何より、被害者だった令嬢が自分の権利を知り、正当な地位を取り戻し、やがて幸せな家庭と穏やかな暮らしを手に入れるところまで描かれているのがいい。
ただ悪人が転落するだけではなく、奪われた人生がきちんと取り戻される。ヒューマンドラマとしても満足感があります。
さらに、姉のものなら何でも欲しがる妹のお話も、なかなか強烈。
姉の持ち物、姉の立場、姉の婚約者。何でもかんでも「狡いですわ!」で済ませようとする妹と、それを甘やかす両親。
読んでいるこちらとしては、もう勘弁してくれと言いたくなるのですが、この国では、そんな家庭内の問題もきちんと法の目にかかります。
しかも、物語が進むにつれて、単純に甘やかされた妹が悪い、というだけでは済まない事情も見えてくるのです。
家族の愛情とは何なのか。誰か一人を優遇することが、別の誰かをどれほど傷つけるのか。ざまぁの痛快さの裏側に、そんな苦みも感じられます。
個人的に面白いのは、婚約者を貶めて自分に依存させようとする男の話。
表向きは完璧な貴公子。しかし、内面は思い込みと独占欲の塊。婚約者を見下し、周囲に悪評を広め、本人はそれを愛情だと思い込んでいるのですから、もう救いようがありません。
ところが、当の婚約者は彼に執着するどころか、自分の研究や家族との時間を楽しんでいる。
本人だけが「自分に夢中なはずだ」と信じ込んでいるのが、何とも哀れで滑稽です。
そして、彼女が特殊法を使って婚約を解消する展開には、思わずニヤリ。好きな相手を支配することと、大切にすることは違う。そんな当たり前のことを、法律という形で突きつけてくれます。
後半の乙女ゲーム転生編も見逃せません。
自分がゲームのヒロインだから、攻略対象は自分を好きになるはず。婚約者は悪役令嬢だから、邪魔者として排除されるはず。
そんな思い込みを抱えた転生者に対し、監督局の職員が淡々と現実を説明してくれるのです。
そもそも、ここはゲームの世界ではありません。現実には現実の身分制度があり、法律があり、人間関係があります。
ゲームのシナリオを信じ込んで周囲に迷惑をかければ、当然ながら責任を問われます。
「悪役令嬢もののお約束」を、作中世界の住人が真正面からツッコんでいく。
この発想がたまりません。
そして、読み進めると気づきます。
なぜ、この国にはこれほど大量の法律があるのか。
それは、かつての王族や貴族たちが、さまざまな愚行を繰り返してきたから。後半では、そんな過去の王国の崩壊と、新たな国の建国、そして王国特殊法が生まれた経緯が描かれます。
目の前の悪人を罰するだけでは、同じ悲劇が繰り返される。ならば、二度と同じことが起きないように仕組みを作ればいい。
この考え方が、作品全体を貫いているのです。
王族の恋愛沙汰から貴族家の相続問題、家庭内の虐待、乙女ゲーム転生者の暴走まで、扱う事件はさまざま。それぞれの時代の物語が、千年に及ぶ王国の歴史と結びついていくのも楽しいところです。
そして何より、特殊法監督局の職員たちがいい!
権力者に忖度せず、証拠を集め、法律に従って淡々と仕事をする。ときには呆れ、ときには頭を抱えながらも、今日も今日とて問題を処理していく姿には、妙な安心感があります。
王子が暴走しても大丈夫。公爵家で虐待が行われていても大丈夫。乙女ゲームのヒロインが世界の常識を無視しても大丈夫。
なぜなら、カヌーン魔導王国には特殊法監督局があるのだから!
ざまぁ好きには、悪事が暴かれ、責任を取らされる爽快感を。
異世界恋愛好きには、婚約や結婚をめぐる問題が解決し、誠実な相手と幸せをつかむ満足感を。
ヒューマンドラマ好きには、家族のしがらみや権力の腐敗を乗り越え、自分の人生を取り戻していく物語を。
そして、テンプレ展開を読み慣れた人には、「そこ、そうなるの!?」という痛快なツッコミを。
おなじみの異世界恋愛テンプレを知っていれば知っているほど、楽しめる作品だと思います。
読み終えた後、きっと思うはずです。
婚約破棄をする前に、まず法律を確認しましょう。
そして、もしあなたが異世界の王族や貴族に転生することがあったなら、どうか覚えておいてください。
その国の法律は、過去の誰かがやらかした結果として存在しているのかもしれません。
……ということは、まだ法律になっていないだけで、これからやらかす人がいるということでもあるのですが。
今日も忙しい王国特殊法監督局の皆さんに、心から同情いたします。
そして、次はどんなやらかしが法律になるのか、ちょっと楽しみにしてしまうのでした。
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