その悪役令嬢、本当に悪役ですか?――思い込みヒロインが自ら選んだ、あまりにも見事なバッドエンド!
乙女ゲームの世界に転生! 攻略対象の王太子と恋仲に! 立ちはだかる悪役令嬢を断罪して、最後には王太子妃として幸せいっぱいの生活を手に入れる……。
そんなお約束の展開を期待している方にこそ、ぜひ読んでいただきたい一作です。
本作の主人公は、裕福な商家の娘バルバラ。前世でプレイしていた乙女ゲームの世界に転生した彼女は、自分こそがヒロインであり、王太子クリストハルトを攻略している真っ最中だと確信しています。
攻略対象たちとは親密になり、ついに最終学年。ここから悪役令嬢による苛めが始まるのもゲームの筋書きどおり。
……のはずなのですが、どうにもおかしい。
悪役令嬢フロレンツィアは確かにバルバラを厳しく指導しますが、持ち物を壊したり、階段から突き落としたりするような、いかにもな悪事は働きません。それどころか、王太子クリストハルトはフロレンツィアを咎めようとせず、バルバラの訴えにもどこか煮え切らない態度。
普通なら、ここで立ち止まって考えるべきですよね。
でも、バルバラは考えません。
なぜなら彼女にとって、悪役令嬢とはヒロインを苛め、最後には攻略対象たちに断罪される存在だから!
ゲームで見た展開と違えば、現実のほうをゲームの筋書きに合わせればいい。そんな具合に、彼女は自分でドレスを汚し、持ち物を壊し、噴水に落ち、挙げ句の果てには階段から落ちてまで、フロレンツィアに苛められた証拠を捏造していきます。
いやいや、ちょっと待って!
それ、誰にやられたんですか!?
読んでいるこちらが思わずツッコミを入れたくなるほど、バルバラの思い込みは止まりません。
しかも彼女の目的は、ただ王太子に愛されることではないのです。王妃になって、最高級のドレスや宝石に囲まれ、誰もが自分に傅く生活を送ること。すでに裕福な商家の娘でありながら、平民としての暮らしでは満足できず、王族という最高の肩書きまで欲しがるのです。
愛よりも地位、恋よりも贅沢。
そんな彼女が、ゲームの知識と都合のいい解釈だけを頼りに突き進んでいく姿は、ある意味で見事です。ここまで自分に都合よく世界を解釈できるのも、一種の才能かもしれません。
そして、そんなバルバラに対して、王太子クリストハルトが告げる言葉がまた秀逸。
王族の婚約破棄には厳格な条件がある。フロレンツィアには罪がない。だから婚約を破棄することはできない。
そう説明されても、バルバラは納得しません。彼女の頭の中では、婚約破棄はヒロインが幸せになるための定番イベントなのですから。
ここで注目したいのが、フロレンツィアという女性の存在です。
彼女は、バルバラが思い込んでいるような、王太子の寵愛を妬んで陰湿な苛めを繰り返す悪役令嬢ではありません。王族としての責務を理解し、次期王妃にふさわしい振る舞いを身につけ、貴族社会の厳しい駆け引きもこなす、まさに本物の淑女。
しかも、彼女とクリストハルトの婚約には、王家の事情と公爵家の献身が深く関わっています。
王家が公爵家に頭を下げて成立した婚約。国と王家を支えるために重責を引き受けたフロレンツィア。
それなのに、バルバラは彼女を「王妃になりたいから無理やり婚約者の座に収まった女」と決めつけるのです。
いや、完全に逆です!
そして、ここから物語は、単なる恋敵への断罪劇とは違う顔を見せ始めます。
クリストハルトは、バルバラの前では穏やかで優しい王子様。しかし、その内面は、王族としての責任を理解し、国益と自らの立場を冷静に判断する為政者でした。
バルバラを離宮に匿うという、彼女にとっては夢のような展開。
豪華な部屋に、たくさんのドレスと宝石。憧れのお姫様ベッド。王宮での贅沢な暮らし。
バルバラは、これこそ王太子妃になるための第一歩だと信じて疑いません。
けれど、読者にはもう分かっています。
彼女が手に入れたものは、望んでいた未来への切符などではないのだと。
このあたりの展開が、本作のざまぁ好きにはたまらないところ。主人公が自分の望みを叶えたと思い込んでいる間に、現実はまったく別の方向へ進んでいるのです。
そして時が経ち、クリストハルトが離宮を訪れなくなると、バルバラの幸福な夢は少しずつ崩れ始めます。
新しいドレスも宝石も手に入らない。使用人たちは自分を王太子妃として扱ってくれない。挙げ句の果てに、厨房で耳にしたのは、クリストハルトがフロレンツィアと結婚し、彼女を溺愛しているという話。
えっ、どういうこと!?
あれほど自分こそが愛されていると信じていたバルバラにとって、これほど受け入れがたい現実はないでしょう。
しかし、彼女がどれほど否定しようとも、クリストハルトは戻ってきません。かつて親しげに接してくれた攻略対象たちも、もう彼女の味方ではないのです。
自分がヒロインだと思い込んでいた少女が、いつの間にか物語の表舞台から消えていく。
この結末の皮肉が、実に鮮やかです。
そもそも、バルバラが転生した乙女ゲーム『妾妃物語』は、王太子ルートであっても、ヒロインが正妃になれるとは限らない作品でした。最高評価でも側室、通常評価なら愛妾。そして最低評価に至れば、王太子の成婚後に離宮へ監禁され、放置されるバッドエンド。
しかも、そのバッドエンドへ進むには、ライバル令嬢がしてもいない苛めを捏造するという選択が必要だったのです。
つまり、バルバラはゲームの知識を持って転生したにもかかわらず、肝心の結末を知らなかった。
自分の都合のいい部分だけを信じ、現実を見ず、他人を悪者に仕立て上げた結果、彼女自身がバッドエンドを選び取ってしまったわけです。
これぞ、まさしく自業自得!
本作の面白さは、誰かが大々的に断罪劇を演じなくても、因果応報がきっちり成立しているところにあります。悪役令嬢を断罪するはずだったヒロインが、実は自分自身の思い込みによって破滅への道を歩いていた。しかも、王太子は最初から彼女の夢物語に付き合うつもりなどなかったのです。
異世界恋愛のお約束を知っている読者ほど、バルバラの言動にツッコミを入れながら楽しめるはず。
そして最後に明かされる、バッドエンド以外の王太子は爽やかな好青年だったという事実も、なかなかに味わい深いものがあります。
そう、王太子が最初から誰に対しても冷酷だったわけではないのです。自分がどんな立場にいて、誰が何のために責任を背負っているのか。それを理解しないまま、相手を自分の望む役柄に押し込めようとしたバルバラ。その選択の積み重ねが、彼女の結末を決定づけました。
悪役令嬢ものが好きな方、思い込みの激しいヒロインが自ら墓穴を掘っていく展開が好きな方、そして最後に「そりゃそうなるよ!」と膝を打てるざまぁをお求めの方。
ぜひ、この思い込みヒロインの行く末を見届けてください。
自分は物語の主人公だから、最後には必ず幸せになれる。
そんな根拠のない確信が、どんな結末を招くのか。
その答えは、ぜひ本編で!
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