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夢見る仔猫の雑記帳

創作サイト『夢見る仔猫』の雑記帳

政略結婚の意味、理解してますか。

本当に怖いのは、敵に回した相手の正体を知らないこと。

「俺が貴様を愛することなどない!」

政略結婚した初夜に、夫からそんな宣言をされたら普通は絶望するところでしょう。しかも夫には真実の愛を誓い合った恋人がいて、妻は金を運ぶだけのお飾り扱い。おまけに夫は、自分こそが妻に愛されて当然の存在だと思い込んでいる。

……はい、もうこの時点で盛大なフラグが立っています。

しかし、本作の主人公マグノリアは違います。悲嘆に暮れるどころか、夫の言葉を冷静に受け止め、侍女たちと今後の方針を確認。婚姻前契約書を取り出し、証拠を集め、離婚に向けて着々と動き始めます。

そう、これは愛を知らない愚かな夫に泣かされるヒロインの物語ではありません。自分が何をしたのかも理解していない愚かな貴族たちが、よりによって相手を間違えた結果、自分たちの行いによって破滅していく物語なのです。

もう、この導入だけで「さあ、どこまで転がり落ちるのか見せてもらおうじゃないか」という気持ちになります。

マグノリアの魅力は、何といってもその有能さと胆力です。

彼女は単に頭が切れるだけの令嬢ではありません。建国以来の名門エスタファドル家の娘であり、母が興した商会の一部門を任され、事業を動かす実務能力も持っています。貴族としての知識、交渉力、情報収集能力、そして必要とあれば冷徹な判断を下す覚悟まで備えている。

しかも、表向きは儚げで気品ある美しい令嬢。内面は計算高く、勝ち気で、なかなかに腹黒い。

この外見と中身のギャップがたまりません。

夫の暴言に感情を振り回されるのではなく、「では、その発言を証拠として使わせていただきますわ」とばかりに利用してしまう。相手が自分を軽んじれば軽んじるほど、その油断を逆手に取って包囲網を狭めていく。

読んでいて気持ちがいいのは、彼女が相手の失敗を偶然待っているわけではないところです。相手の言動を見極め、契約を確認し、証拠を確保し、必要な根回しを進める。勝つための準備を怠らないからこそ、彼女の一手一手に説得力があります。

そして、そんな彼女の最初の敵となるオルガサン侯爵家が、これまた見事なまでに救いようのない一家なのです。

侯爵という爵位に胡坐をかき、自分たちの家がどれほど困窮しているのかも、相手がどれほどの家柄なのかも理解していない。領地経営は家臣任せ、贅沢はやめない、義務は果たさないのに権利だけは主張する。

嫡男ペルデルに至っては、愛人アバリシアとの関係を「真実の愛」と信じ込み、政略結婚の相手であるマグノリアを金づる扱い。しかも、婚姻前契約書に自分で署名しておきながら、その契約がどれほど重い意味を持つのか理解していません。

この二人が繰り広げる悲劇の恋人ごっこも、なかなかの見ものです。

ペルデルはアバリシアを侯爵夫人にするつもりがあるかのように振る舞い、彼女は彼の言葉を信じて将来の栄華を夢見る。しかし実際には、ペルデル自身も彼女を正妻にする気などなく、自分の欲望や虚栄心を満たしてくれる存在として扱っているにすぎません。

お互いに都合のいい幻想を見て、お互いに相手を理解したつもりになっている。その姿が滑稽であると同時に、彼らが招く結末を思うと、なんとも皮肉が効いています。

そして、ここからが本作の醍醐味。

マグノリアの反撃は、単なる不倫夫への慰謝料請求では終わりません。

王命による婚姻の裏側には、国王とエスタファドル家が抱える思惑がありました。オルガサン侯爵家の立て直しという名目の結婚は、実のところ、長年にわたって王家の負債となっていた一家を正当な理由のもとに処理するための計画でもあったのです。

つまりペルデルたちは、妻を見下している場合ではなかった。

そもそも自分たちが誰を相手にしているのか、なぜその結婚が成立したのか、婚姻前契約書にどんな意味があるのか。それらを理解する努力すらしていなかったのです。

この物語の「ざまぁ」は、感情的な仕返しだけではありません。契約違反という明確な根拠があり、証拠があり、王家の思惑があり、積み重ねられてきた怠慢と傲慢に対する報いがあります。

持参金や援助金を得たつもりが、気づけば莫大な慰謝料を請求される。妻を追い出すつもりだったのに、いつの間にか自分たちの居場所がなくなっている。爵位があれば何とかなると思っていたのに、その爵位そのものを失うことになる。

自分たちの行動が、最初から最後まで自分たちの首を絞めていた。

この因果応報の気持ちよさは、まさにざまぁ好きにはたまらないものがあります。

さらに本作が面白いのは、マグノリアの周囲にいる人々もまた、一筋縄ではいかないこと。

父アマネセルをはじめとするエスタファドル家の面々は、ただ娘を溺愛するだけの家族ではありません。王家の裏の仕事を担う一族として、必要なときには冷徹に策を巡らせる人々です。母クラベルの商才も含め、家族全体が有能で、互いを信頼し、必要な場面では容赦なく動く。

マグノリアが一人で無双するだけではなく、彼女を支える家族や側近たちにもそれぞれの役割があるのがいいところです。

侍女や執事たちとのやり取りには軽妙な毒舌もあり、重たい政略や処分の話が続く中でも、くすりと笑える場面が生まれています。主人を信頼し、彼女のために証拠集めや準備を進める彼らの存在は頼もしく、読んでいて安心感があります。

そして、忘れてはいけないのが恋愛要素。

王命による結婚でマグノリアが一度は諦めた幸せな結婚。その一方で、彼女を想い続け、自分にできることを積み重ねていくセレアルの存在が、物語にもう一つの軸を与えています。

彼は彼女の境遇を利用して求婚するのではなく、彼女が自分の役目を果たすことを尊重しながら、二人が一緒に生きていくための道筋を整えていきます。離婚が成立するまでは彼女の立場を傷つけないように距離を保ち、時期が来るのを待つ。その誠実さが、ペルデルの身勝手さと鮮やかな対比を成しています。

マグノリア自身も、ただ守られるだけの女性ではありません。自分の判断で政略を遂行し、自分の未来を切り開いたうえで、愛する人との結婚を選び取るのです。

一度目の結婚式と、最後の結婚式。その対比も印象的です。

最初は急ごしらえの婚礼衣装に、夫の身勝手な宣言。ところが最後には、家族や親族、使用人、商会の人々、そして両国の王族や貴族たちに祝福される、華やかな結婚式が待っています。

最初の結婚が、他人の思惑によって押しつけられたものだったとすれば、最後の結婚はマグノリア自身が選び取ったもの。恋愛と政略の両方を満たす、彼女にふさわしい門出です。

なお、物語後半では、マグノリアに執着する第三王子ジャバリーの存在も大きくなります。彼もまた、自分の身分や立場を都合よく解釈し、相手の意思を顧みない人物。ペルデルとはまた違った方向で「自分が望めば何でも手に入る」と信じている彼が、王族としての責務と周囲の判断に直面する展開も見逃せません。

本作は、浮気夫と愛人へのざまぁを期待して読み始めると、やがて貴族社会の仕組みや王家の思惑まで巻き込んだ、大きな因果応報の物語へと広がっていきます。

タイトルの「政略結婚の意味、理解してますか。」は、読了後にこそ重みを増す言葉です。

政略結婚とは、爵位の高い男が妻を従わせ、実家から金を引き出すための制度ではありません。家と家、領地と領地、そして国と国を結びつけるもの。そこには義務があり、責任があり、契約があり、相手を理解するための知恵が必要なのです。

それを理解しなかった者たちは、自らの傲慢さによって転落していく。

一方で、責務を理解し、周囲を信頼し、自分の未来を諦めなかったマグノリアは、最後には自分にふさわしい幸せを手にします。

有能な令嬢、愚かな夫と愛人、容赦のない契約と証拠、家門ごと巻き込む大規模なざまぁ、そして最後に待つ相思相愛の再婚。

このあたりの要素がお好きな方なら、きっと楽しめる一作です。

何より、最後まで読んだあとにもう一度タイトルを見返したくなる。

「政略結婚の意味、理解してますか。」

ええ、本当に。理解していなかった人たちの末路を、ぜひ見届けてください。

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