「真実の愛」の代償は、あまりにも重かった。
「真実の愛」を貫いた第一王子と平民の少女。
身分違いの恋を成就させた二人は、幸せな未来を手に入れた……はずでした。
けれど、その結末は毒杯。
なぜ二人は死ななければならなかったのか。
これは、愛する二人を引き裂いた悪役令嬢へのざまぁ物語ではありません。むしろ、よくある「真実の愛」ものの、その後を徹底的に現実的な視点から描いた物語です。
主人公……というより語り部となるのは、第二王子エルメーテの妃、ベアトリーチェ。
前世の記憶を持ち、乙女ゲームの世界に似た場所に生まれた彼女は、第一王子ダニエーレの婚約者候補でありながら、彼の異母弟エルメーテを愛していました。
だからこそ、ゲームのヒロインであるアンジェリカが現れたとき、彼女は密かに期待します。
アンジェリカがダニエーレと結ばれれば、自分は愛する人と結婚できるかもしれない。
ところが、ここはゲームではなく現実です。
平民の少女が王族に見初められたからといって、王族としての責任まで免除されるわけではありません。第一王子が恋に落ちたからといって、国の事情も、外交も、王位継承も、すべてが二人の都合に合わせて動いてくれるわけではないのです。
この作品で何より印象的なのは、徹底して描かれる「立場には、それに伴う責任がある」という考え方です。
王族の結婚は、個人の幸福だけを目的とするものではない。
王妃という地位は、王子に愛されているだけで務まるものではない。
そして、周囲から与えられる特権には、それを支える義務がある。
作中では、こうした事情がベアトリーチェの回想を通して語られていきます。
王族や貴族の教育、妃の公務、他国との外交、王位継承をめぐる政治的な駆け引き。表向きには華やかな王宮の生活も、その裏では多くの人々が責任を背負い、国を支えるために動いているのです。
その中で、ダニエーレとアンジェリカだけが、自分たちの恋愛を何よりも優先してしまう。
もちろん、アンジェリカが平民出身だからといって、彼女に努力する資格がないわけではありません。実際、彼女は愛する人の隣に立つために淑女教育を受け、慣れ親しんだ生活や価値観を変えようとします。
その努力まで否定されるべきではないでしょう。
だからこそ、ベアトリーチェの視点が興味深いのです。
彼女はアンジェリカを単純に憎んでいるわけではありません。最初は好感を持ち、教育係を推薦し、学びやすいようにカリキュラムまで考えます。彼女が王宮で孤立していく様子を見て、同情さえしています。
けれど、差し伸べた手を拒絶され、自分こそが不幸の原因だと責められたとき、彼女の中の何かが変わる。
愛する人と一緒にいたい。その気持ちは理解できる。
しかし、そのために周囲がどれほどの負担を背負っているのか。
自分たちの幸福を守るために、どれほど多くの人々が尻拭いをしているのか。
二人は、そこを理解しようとしませんでした。
そして迎える、決定的な破局。
外交の重要な式典での失態は、単なる恥さらしでは終わりません。隣国との関係を悪化させ、国を戦争の危機にまで追い込んでしまいます。
それでもなお、自分たちの行いの重大さを理解できない二人。
ここまで来ると、読者としてはもう「どうしてそうなるの!?」と言いたくなるのですが、同時に、彼らがなぜ破滅へ向かうのかもよく分かります。
一度も自分たちの立場を直視せず、周囲の忠告を聞かず、失敗しても反省せず、何かが起きれば誰かのせいにする。
そうして自分たちの味方を一人ずつ失っていった結果が、あの冒頭の場面へとつながっていくのです。
個人的に、この作品のざまぁは、単に悪人が罰を受けてスッキリするというものではありません。
二人は自分たちなりに本気で愛し合っていたのでしょう。だからこそ、本人たちにとっては悲恋であり、周囲から見れば当然の結末であるという落差が、何ともいえない後味を残します。
そして、もう一つ忘れてはいけないのがベアトリーチェです。
彼女は王子に選ばれなかった令嬢ではありません。愛する人と結ばれ、王妃としての責務を果たし、子を育て、国を支えていく女性です。
彼女自身も、王家の思惑や政治的な都合に翻弄されています。それでも感情だけで判断せず、時には同情し、時には怒り、最後には王族としての責任を引き受けていく。
彼女が語るのは、勝者の華々しい武勇伝ではありません。国を守るために何を切り捨て、何を背負わなければならなかったのかという、統治する側の現実です。
そして最後に明かされる、二人の愚行が国にもたらしたもの。
ここでタイトルの「当然だったのかもしれない」という言葉が、改めて胸に刺さります。
二人の結末は、本当に当然だったのでしょうか。
もっと早く誰かの言葉に耳を傾けていれば。
王族という立場を理解していれば。
愛する人と生きるために、何かを手放す覚悟があれば。
違う未来もあったのかもしれません。
けれど、選ばなかった道の先にある幸福は、最後まで二人には見えなかったのでしょう。
異世界恋愛の「真実の愛」が好きな方にも、婚約破棄やざまぁが好きな方にも、ぜひ読んでいただきたい一作です。
甘い恋物語の裏側にある政治と責任。そして、愛だけでは越えられない現実。
読み終えたとき、きっとあなたも考えるはずです。
――真実の愛を貫くことと、その愛に責任を持つことは、同じではないのだと。
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