婚約破棄から始まる、王家乗っ取りの痛快な大逆転劇!
婚約破棄、悪役令嬢、愚かな王太子、そしてざまぁ。
なろう系異世界恋愛を読み慣れた方なら、冒頭を読んだ時点で「ああ、いつもの婚約破棄ものね」と思うかもしれません。
王立学院の卒業謝恩会で、王太子セレスティノが婚約者のベアトリクスに婚約破棄を突きつける。隣には、いかにも庇護欲をそそる男爵令嬢フローラ。さらにベアトリクスには身に覚えのない虐めの罪まで着せられ、王都追放を宣告される。
はいはい、またこのパターンですね。
……と思った方こそ、ぜひ最後まで読んでいただきたい。
この物語、婚約破棄をした王太子がざまぁされる話であると同時に、そもそも誰が誰を陥れようとしていたのか、という壮大な思惑の物語なのです。
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まず注目したいのは、婚約破棄劇の裏側です。
セレスティノの行動を見れば、傍目には愚かな王太子が恋に溺れて自滅したようにしか見えません。国家安寧のために結ばれた婚約を軽んじ、身分も立場も弁えず、証拠もないまま公爵令嬢を断罪する。次期国王としての資質を疑われても仕方のない振る舞いです。
ところが、周囲の反応がどこかおかしい。
国王ドロテオは激怒しながら、どこか嬉しそう。ベアトリクスは追放を宣告されても冷静で、周囲の高位貴族たちも大きく動揺しない。
普通なら、ここから婚約破棄された令嬢の反撃が始まるところでしょう。
しかし本作では、さらに視点を広げてみると、王太子の廃嫡を喜んでいる者がいる一方で、彼の失脚を当然の結末として受け止めている者たちもいることが見えてきます。
そして明かされる、国王ドロテオの事情。
彼はそもそも正統な王位継承者ではありません。亡き兄王の遺児であるセレスティノが成人するまでの、あくまでも暫定的な国王。しかも、セレスティノが学院を卒業すれば譲位するという約束まで交わしていたのです。
つまり、ドロテオにとってはセレスティノの存在そのものが邪魔だった。
王太子の婚約破棄騒動は、単なる恋愛沙汰ではありません。自分の欲望を満たしたい国王夫妻と、その周囲に集まる権力欲にまみれた貴族たちが、王位を手に入れるために仕掛けた謀略だったのです。
もっとも、その謀略があまりにも稚拙なのが、この物語の面白いところ。
自分たちの計画が順調に進んでいることを疑いもしない。相手が何を考えているのか、どれほどの後ろ盾を持っているのか、そもそも自分たちがどんな立場にいるのかすら、まともに理解していない。
策を弄しているつもりの者たちが、実際には盤上の駒にすぎない。
この構図が、実に痛快です。
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そして、本作のタイトルである『思惑通り──誰の?』。
これがまた、物語全体を象徴する秀逸なタイトルなのです。
ドロテオは思惑通りにセレスティノを排除できたと歓喜します。王太子を廃籍に追い込み、自分の王位を守り、いずれは自分の息子に王位を継がせる。彼の頭の中では、すべてが計画通りに進んでいるのでしょう。
けれど、読者はすでに気づき始めています。
本当にそうでしょうか?
ベアトリクスの冷静さ。国王の命令に従いながらも妙に礼儀正しい騎士たち。セレスティノが何も弁明せず、流刑を受け入れたこと。
そして、送られた先がアルトドルファー公爵領の都市サリナスだったこと。
このあたりから、物語の景色が一変します。
愚かな国王が勝利を確信したその瞬間、読者には別の光景が見えてくるのです。彼らが勝ったのではなく、勝ったと思い込まされているのではないか、と。
実際、サリナスで待っていたのは、婚約破棄されたはずのベアトリクスでした。
ここで明かされる真相が、また素晴らしい。
セレスティノとベアトリクスの関係は、国王の思惑に従って壊れたわけではありません。二人は互いを信頼し、愛し合っていたのです。謝恩会での一連のやり取りも、王太子の廃嫡も、単純な敗北ではありませんでした。
さらに、王太子の傍らにいたフローラまでもが、実は国王夫妻の手駒ではなかったという展開。
あの可憐な男爵令嬢が、実際には高い能力を持つ女性騎士候補生であり、ベアトリクスの護衛として動いていたのです。
いや、これは騙されます。
恋愛小説でお馴染みの「王太子を惑わす可憐な令嬢」という役回りを、ここまで見事にひっくり返してくるとは。
しかもフローラは、ただの協力者ではありません。彼女が動いていた背景には、王妃の実家である侯爵家の内部対立があり、そこには過去の婚約破棄や裏切り、家族への恨みまで絡んでいます。
一見すると王家と貴族の単純な権力争いですが、掘り下げてみれば、それぞれの家の事情と積年の因縁が複雑に絡み合っている。
この多層的な構造が、短編ながらも物語に厚みを与えています。
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そして、ざまぁ好きとして何より期待したいのが、愚王一家の末路でしょう。
ドロテオは自分の欲望のために王位を手放そうとせず、国家予算を私物化しようとし、正統な王位継承者の命まで狙っていました。
そのうえ、彼が兄王夫妻の死に関わっていた事実まで明らかになります。
しかも、その手口がまたひどい。
自分で手を下す度胸もなく、幼い息子に馬へ興奮剤を与えさせるという、無責任極まりないもの。本人にとっては軽い悪戯のつもりだったというのですから、開いた口が塞がりません。
そして、取り調べの場で自分の行いが兄王夫妻の死につながったと知りながら、平然とした態度を見せる。
これはもう、王としての資質以前に、人としてどうなのかという話です。
そんな人物が、最後には自らの行いの報いを受ける。
国王夫妻は処刑され、彼らを支えていた前当主たちも裁かれる。さらに、その子供たちもそれぞれが犯した罪によって相応の処分を受けることになります。
一方で、王太子を支持していた現当主や嫡子たちは、家の内部にいた旧勢力と区別されます。
ここがまた、単純な連座ではないところに納得感があります。血筋だけで一律に裁くのではなく、誰が何をしたのか、誰がどちらに与したのかを踏まえて処分が決められているのです。
悪人を懲らしめて終わりではなく、国を立て直すための後始末まで描かれている。
ざまぁの爽快感だけでなく、政治劇としての決着も味わえる作品だと思います。
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恋愛面では、セレスティノとベアトリクスの関係が大きな見どころです。
婚約破棄という、なろう系異世界恋愛ではお馴染みの出来事から始まる二人の物語。しかし、二人の間には誤解によるすれ違いも、相手を疑うような駆け引きもありません。
謝恩会での別れは、二人の愛が壊れた瞬間ではなく、互いを信じて次の段階へ進むためのものだったのです。
流刑地で再会した二人が、周囲の目も忘れて抱き合う場面には、張り詰めた物語の中でほっとするような温かさがあります。
そして、すべてが片付いた後、セレスティノは王位に就き、ベアトリクスは王妃となる。フローラもまた、王妃の護衛兼筆頭侍女として彼女の傍らに仕えます。
それぞれが自分の役割を果たし、あるべき場所へと収まっていく結末は、読後感も爽やかです。
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本作は、婚約破棄から始まる王道のざまぁ劇でありながら、その実態は王位をめぐる壮大な権力闘争です。
愚かな国王が勝利を確信し、稚拙な謀略に酔いしれる一方で、真の勝者たちはずっと先を見据えて動いている。
そして、最後に残るのは、タイトルへの納得感。
思惑通りに進んだのは、いったい誰の計画だったのか。
婚約破棄ものが好きな方はもちろん、悪役令嬢もの、王家乗っ取り、貴族社会の権力闘争、そして悪人がきっちり報いを受けるざまぁ展開が好きな方にもおすすめです。
何より、最初はよくある婚約破棄劇に見える出来事が、読み進めるにつれて別の意味を帯びていくのが楽しい。
「やった、ついにやったぞ!」と歓喜する愚王の姿を見て、読者が思わずニヤリとしてしまうこと請け合いです。
その勝利、本当にあなたの思惑通りですか?
最後まで読めば、きっとこのタイトルをもう一度噛み締めたくなるはずです。
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