ざまぁの舞台裏まで抜かりなし! 勘違い一家を待ち受ける、特殊な国の日常風景
「自分は次期公爵なのだから、妻の家でも好き放題できるはず!」
「愛する人との間に生まれた娘こそ、本当の公爵令嬢よ!」
……などという、どこかで見たような勘違いをこじらせた人々。そんな彼らが好き勝手に振る舞ったら、周囲はどうするのか?
普通なら、怒りに燃えるヒロインが婚約破棄を叩きつけたり、理不尽な扱いを受けた令嬢が華麗に逆転したりするところでしょう。
しかし、本作『よくある風景、但しある特殊な国に限る』は、ひと味もふた味も違います。
なにしろ舞台はカヌーン魔導王国。王侯貴族であっても、身分を振りかざせば何でも許されるわけではない、なかなかに厳しい国なのです。
物語の中心となるのは、娘しかいない公爵家に婿入りしたヤフケド。
彼は自分こそが次期公爵だと信じて疑わず、妻の家の使用人たちが自分を「若旦那様」と呼ばないことにご不満です。
ところが、現実は非情。
妻ヘフィナドはれっきとした次期当主であり、ヤフケドはあくまでもその夫。公爵家の特色も固有魔法も持たない彼に求められているのは、次期当主を支える配偶者としての役割です。
それなのに、本人は自分の立場を理解しないどころか、学生時代の恋人とよりを戻し、愛人とその娘まで抱え込んでしまいます。
しかも、その生活費の出どころを考えると、もう呆れるしかありません。
自分の立場をわきまえず、都合のいい解釈で周囲を振り回す。愛人もまた、自分が将来の公爵夫人になれると信じ込み、その娘は公爵令嬢の座を夢見る。
この一家、いったいどこまで現実が見えていないのでしょうか。
しかし、ここで面白いのが、公爵家の人々の対応です。
怒鳴り込んでくる相手に感情的に反応するのではなく、立場と制度をきっちり理解させる。必要な教育を施し、問題行動には相応の対応を取る。しかも、その過程で使用人たちの容赦ない言動が飛び出すのですから、思わずニヤリとしてしまいます。
特に印象的なのは、ヤフケド一家に対する使用人たちの認識と、それを反映した朝礼の唱和。
主家の正嫡は誰なのか。別館に住む人々は何者なのか。毎朝確認されるその内容が、あまりにも辛辣!
公爵家の使用人たち、仕事熱心なのは結構ですが、言葉の切れ味が鋭すぎませんか!?
もちろん、単なる悪口大会というわけではありません。そこには主家への忠誠心があり、次期当主アレグリアを守るという明確な目的があります。彼らの辛辣さすら、この国ではある意味、秩序を維持するための一環なのです。
そして、物語は十五年後へ。
成長したアレグリアは、母の後を継ぐ公爵家の次期当主として立派に育ち、幼馴染の婚約者トルミロスとの関係も良好。一方、別館の愛人母娘は相変わらず、自分たちに都合のいい夢を見続けています。
ここで登場するトルミロスも、なかなかの人物。
愛しい婚約者を害する存在に対して、わざわざ自分が関わる必要はないと判断する冷静さ。相手の挑発に乗って騒ぎ立てるのではなく、必要な対処は護衛や家臣、そして専門の役所に任せる。
この世界の有力者たち、問題人物の扱いに慣れすぎではありませんか?
そして、とうとう勘違い一家が越えてはいけない一線を越えたとき、ついに動き出すのが王国特殊法監督局です。
ここまで読んでくると、この国の特殊法とは何なのか、監督局はどんな仕事をしているのかという疑問も、物語の面白さを引き立てる要素になっています。
何より、本作のざまぁは、ただ相手を破滅させて終わりではありません。
自分の立場を理解しようとしなかった者、自分の欲望を優先して周囲を振り回した者、それぞれの行動が積み重なった結果として、最後にそれぞれの行き先が決まっていきます。
特筆したいのは、ヤフケドの結末です。
愛人母娘と一緒になって好き放題していたのだから、彼もまた一緒に厳罰を受けて終わり……と思いきや、そう単純にはいきません。彼なりに反省し、責任を取ろうとする姿が描かれるのです。
一方で、彼が招いた事態の重さは消えません。
このあたりの決着には、単純な勧善懲悪だけではないヒューマンドラマの味わいがあります。やらかした人間がどう責任を取るのか。そして、周囲はどこまでその責任を認めるのか。そんな部分まで描かれているのが魅力です。
また、騒動が片づいた後の公爵家が、何事もなかったかのように日常へ戻っていくところも好きです。
アレグリアは学業に励み、トルミロスは彼女を支え、ヘフィナドは女公爵としての仕事をこなしながら、自分自身の人生も楽しんでいく。
問題を起こした一家がいなくなったからといって、世界が終わるわけではない。むしろ、ようやく本来あるべき日常が戻ってくるのです。
そして最後には、特殊法監督局の職員たちの本音まで。
彼らにとっても、できれば出番がないほうがいい。そりゃそうですよね。仕事が必要になるということは、それだけ誰かがやらかしたということなのですから。
異世界恋愛がお好きな方には、しっかりした立場と責任を持つ女公爵ヘフィナドや、次期当主アレグリアと婚約者トルミロスの関係を。
ざまぁがお好きな方には、勘違いを重ねるヤフケド、イステア、エモニと、彼らを取り巻く容赦のない現実を。
ヒューマンドラマがお好きな方には、家族としての責任、身分と義務、そして失敗した人間が選ぶその後の生き方を。
それぞれの視点から楽しめる一作です。
派手な断罪劇もいいけれど、問題を起こした人間を社会の仕組みがきっちり裁き、周囲は周囲で淡々と日常を続けていく。そんな「特殊な国に限る、よくある風景」を覗いてみませんか?
なお、読み終わった後に貴族の入り婿という立場について考えたくなるかもしれませんが、くれぐれも自分の都合のいい解釈で立場を勘違いしないように。
カヌーン魔導王国では、そういう人々への対処法が、どうやらしっかり確立されているようですから。
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