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夢見る仔猫の雑記帳

創作サイト『夢見る仔猫』の雑記帳

ドアマットになりようもない

ドアマットになんてなるものか! 法律と制度で悪党の野望を打ち砕く、痛快な婚家乗っ取りざまぁ!

異世界恋愛や貴族社会を舞台にした作品がお好きな方、身勝手な家族に虐げられた主人公が立場を逆転させる物語がお好きな方に、ぜひ読んでいただきたい一作です。

本作の面白さは、何といっても「婚家を乗っ取ろうとする入り婿」という、ひと味違った悪役の存在と、そんな相手の野望を根本から打ち砕く法律の仕組みにあります。

貴族社会を舞台にした物語では、夫や父親という立場を利用し、妻や娘をないがしろにしながら家の財産や爵位を我が物にしようとする人物が登場することがあります。妻が亡くなった途端に愛人を連れ込み、嫡出の娘を追い落として愛人の子に家を継がせようとする……。そんな展開を想像する方もいらっしゃるでしょう。

本作の主人公ミーリツァの父、エゴールもまさにそんな人物です。

彼は名門アブディエフ侯爵家に入り婿として迎えられたにもかかわらず、妻や娘を顧みず、愛人とその娘を囲って好き勝手な生活を送ってきました。侯爵家の仕事を支えるどころか、必要な教育さえまともに受けようとしない。妻の父である先代侯爵の葬儀にも少し顔を出しただけで、その後は本邸に寄り付きもしません。

一方、妻のエヴァンジェリーナは、夫との離縁を考えながらも侯爵家を守り、後継者である娘のために準備を進めていました。しかし、先代侯爵の死後、爵位継承や領地経営に追われる日々のなかで病を見つけるのが遅れ、ついには帰らぬ人となってしまいます。

母を失ったばかりの十四歳の少女。しかも、これから家を背負っていかなければならない立場です。

ここだけを切り取れば、身勝手な父親に振り回され、愛人母娘に居場所を奪われかねない、いわゆるドアマット系の物語が始まりそうですよね。

ところが、本作はそこからが違います。

そもそも、ミーリツァはドアマットになりようがないのです。

その理由となるのが、先代国王が制定した「貴族家の後継に関する法律」、通称「後継者保護法」。そして、作中で俗称として呼ばれる「乗っ取り入り婿絶許法」です。

この法律が実に面白い!

入り婿による婚家の乗っ取りという問題に対し、単に悪い人間を罰するのではなく、乗っ取りが成立する条件そのものを制度によって潰しているのです。

嫡出子が生まれた段階で行われる血の登録。子供が成人するまで毎年実施される本人確認。当主の交代に関する規定。そして、入り婿が後見人になることを防ぐ仕組み。

さらに、貴族家の屋敷には魔術式による居住契約が組み込まれており、誰でも自由に住み着けるわけではありません。愛人や庶子を使用人として登録して居座らせようとしても、契約に反する行動を取れば魔法によって排除されてしまいます。

この世界では、悪意を持った人物が「夫だから」「父親だから」「家の人間だから」といった理屈で好き勝手できないよう、社会の仕組みそのものが整えられているのです。

ざまぁ作品では、主人公が受けた仕打みに応じて相手を追い詰めていく展開が醍醐味ですが、本作の場合は悪役がどんな野望を抱いていようと、そもそも実現できる制度になっていません。

ここが痛快!

エゴールは妻の死によって侯爵家を自由に動かせると思い込み、愛人とその娘を連れて堂々と本邸に乗り込んできます。自分こそが侯爵家の主であるかのように振る舞い、娘に命令し、愛人母娘を新しい家族として受け入れさせようとするのです。

しかし、彼は大きな勘違いをしています。

侯爵家の当主は、すでにミーリツァなのです。

父親だからといって、娘の爵位を奪えるわけではありません。入り婿だからといって、妻の家を好き勝手にできるわけでもありません。ましてや、愛人とその娘を連れてきたところで、家族として認められるはずもないのです。

そして、本人が知らなかった法律の内容を、同席する公爵から一つひとつ説明されることになります。

この場面は、悪役が自分の思い描いていた未来と現実の落差を突きつけられる、ざまぁ好きにはたまらない展開です。

何より素晴らしいのは、ミーリツァが父親の野望を打ち砕くために、無理な策略を巡らせる必要がないこと。

法律に従い、必要な手続きを済ませ、侯爵家の当主として当然の判断を下す。それだけで、身勝手な父親の立場は崩れていきます。

しかも、彼女は感情に任せて行動しているわけではありません。母から受け継いだ家を守るため、使用人たちの働きにも目を配り、父親の処遇を決めた後には、長旅をすることになる者たちへの労いまで考えています。

十四歳という年齢でありながら、侯爵家の当主としての責任を果たそうとするミーリツァ。その姿には、頼もしさと同時に、まだ母を亡くしたばかりの少女なのだという切なさも感じられます。

彼女を支える婚約者イラリオーンの存在も見逃せません。

幼いころから婚約し、女侯爵の夫となるための教育を受けてきた彼は、ミーリツァの母が病床にあったときも、葬儀のときも、ずっと彼女の傍らで支えてきました。

身勝手な父親とは対照的に、彼はミーリツァを支える存在として描かれています。

恋愛要素を楽しみたい方にとっても、これから夫婦となる二人が信頼関係を築きながら、侯爵家を支えていこうとする姿は魅力的ではないでしょうか。

そして、物語の最後に見えてくるのは、単なる父親への制裁だけではありません。

ミーリツァは母から受け継いだ侯爵家を守り抜き、これから自分自身の人生を歩み始めます。悪意ある人物を排除したからといって、すべての問題がこの世から消えるわけではありません。それでも、少なくとも彼女は、自分の家と未来を脅かす存在を退けることができました。

作中では、乗っ取り入り婿を防ぐための法律が、過去の貴族社会でどれほど深刻な問題があったのかを物語っています。そもそも、こんな法律を作らなければならないほど、貴族の欲望や身勝手さが問題になっていたということなのでしょう。

だからこそ、最後に語られる「絶許法なんて必要ない社会が一番」という思いが印象に残ります。

法律で縛らなければならないほど、人の欲や業は深い。それでも、理不尽な人間の好き勝手を許さない仕組みを整えることはできる。

本作は、そんな世界のあり方を、痛快なざまぁとともに描いています。

悪役が自滅する展開がお好きな方。

有能な女性主人公が家や地位を守り抜く物語がお好きな方。

身勝手な父親や愛人母娘が、当然の報いを受ける展開を読みたい方。

そして、魔法や貴族制度を活用した、ひと味違うざまぁを楽しみたい方。

そんな読者におすすめしたい作品です。

ドアマットにされる前に、そもそも踏みつけられない仕組みを作ってしまう。

この発想が、本作最大の魅力ではないでしょうか。

身勝手な父親の思惑が崩れ去る痛快さと、母の遺志を継いだ少女が自らの足で立つ姿。その両方を楽しめる、短編ながら読み応えのある一作でした。

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