真実の愛」を語るなら、まず責任を取りましょう。――その一言に尽きる、痛快な婚約破棄ざまぁ!
「真実の愛があるから、婚約者を捨ててもいい」
「愛する人を虐げる悪役令嬢なんて、断罪されて当然だ!」
そんなお決まりの婚約破棄劇を、ここまで鮮やかにひっくり返してくれる作品があるでしょうか。
本作『真実の愛の正しい処理方法』は、いわゆる悪役令嬢もの、婚約破棄ものが好きな方にぜひ読んでいただきたい一作です。
ただし、よくあるように、婚約破棄された令嬢がその場で華麗に反論し、隠された能力を披露して、愚かな王子を言葉で叩きのめす……というお話ではありません。
そもそも、この作品の貴族社会では、そんな茶番劇が通用しないのです。
なぜなら、二十年前に、すでに前例があるから。
物語の始まりは、筆頭公爵家の嫡男ライナルトによる婚約破棄です。彼は婚約者オリーヴィアに、自分の心変わりを正直に告げ、すべての責任は自分にあると認めます。
愛する女性ができた。だから婚約者とは別れる。
その選択自体を、彼は他人のせいにしません。
慰謝料も賠償金も支払い、婚約の組み直しによって生じる損害も負担する。公爵家にまで迷惑をかけた責任を取り、嫡男の地位を失っても、借金を背負って働き続ける。
その結果、彼と恋人は二十年という歳月をかけて罪を償い、再び周囲から信頼を得るのです。
この前例が、貴族社会に語り継がれることになります。
――『真実の愛の正しい処理方法』。
このタイトルが、実にいい!
真実の愛を否定するのではありません。恋愛感情を選ぶことと、責任から逃げることは別問題なのだと、物語は最初から明確に示してくれます。
そして二十年後。
第五王子ループレヒトが、夜会で婚約者マルガレーテに婚約破棄を宣言します。
腕には、彼が真実の愛の相手だと信じている少女ミリヤム。彼女を虐げた悪女としてマルガレーテを糾弾し、ミリヤムこそ国母にふさわしいと高らかに宣言するのです。
はい、ここで読者は思うわけです。
ああ、やってしまったな、と。
会場の貴族たちも同じ反応です。驚愕でもなければ、同情でもない。あるのは、呆れと諦め。
誰も王子を称賛しない。誰も婚約破棄を止めようとしない。それどころか、扉を閉ざし、証言を記録し、王宮へ使者を送るという、恐ろしく手際のよい対応が始まります。
この一連の展開が最高に痛快!
普通の婚約破棄ものなら、主人公が追い詰められ、反論の機会を与えられるまでが一つの見せ場でしょう。しかし、本作では王子が勝ち誇っている間に、周囲はすでに事態の後始末を始めています。
彼が自分の勝利を確信しているその瞬間こそ、実際には破滅への一本道なのです。
しかも、ループレヒトの愚かさは、単に恋に浮かれているだけではありません。
自分の王位継承順位も、婚約者であるマルガレーテの立場も、公爵家に婿入りする自分の役割も、何ひとつ理解しようとしていない。
教えられても聞かない。調べようともしない。自分に都合のいい思い込みだけを信じ続ける。
そして、ミリヤムもまた、自分が公爵令嬢だと思い込んでいます。実際には平民でありながら、父親の言葉を信じ、マルガレーテへの嫉妬を募らせ、周囲からの忠告さえも嫉妬だと決めつけてしまうのです。
この二人が本当にお似合いなのは、互いに相手の都合のいい言葉だけを信じ、周囲の現実をまったく見ていないところでしょう。
読んでいて、どうしてそこまで自信満々でいられるのかと、ある意味で感心してしまいます。
けれど、だからこそ破滅が目前に迫っているとわかる展開が面白い!
そして、ここで忘れてはいけないのが主人公マルガレーテです。
彼女は王子の暴言に取り乱しません。必死に弁明することも、泣いて許しを請うこともありません。
ただ静かに、事態を見極めている。
そもそも彼女にとって、ループレヒトは愛する婚約者ですらなかったのです。王家から押し付けられた縁談であり、彼に対する情もない。問題は婚約破棄そのものではなく、その後始末。
この冷静さが、公爵令嬢としての格の違いを際立たせています。
彼女が何も言わないのは、反論できないからではありません。相手の言動が、すでに自分自身の首を絞めているからです。
さらに恐ろしいのは、ループレヒトが口にした「国母」という言葉。
彼は自分が王になると信じ、ミリヤムを未来の王妃にすると宣言します。しかし、王位継承順位は最下位。上位には王太子をはじめとする継承権保持者が健在です。
つまり、その発言は単なる身の程知らずな恋愛宣言では済まされない。
国家そのものを揺るがしかねない重大な問題へと発展してしまうのです。
ここからの展開は、まさに因果応報。
王宮の騎士たちが現れ、王子とミリヤム、そして彼女の家族までが拘束される。王子が信じていた身分も、未来も、周囲からの称賛も、すべてが幻想だったと明らかになっていきます。
特に、ミリヤムが自分は公爵令嬢だと主張するたびに、冷静に事実を突きつけられる場面は印象的です。
どれほど自分を高貴な存在だと思い込んでいても、現実は変わらない。
自分の都合で他人の立場を決めつけ、忠告を無視し、周囲を見下してきた二人が、今度は自分たちの思い込みによって追い詰められていくのです。
しかも、これはマルガレーテ個人による復讐劇ではありません。彼らが犯した罪に対して、国家が法と制度に基づいて裁きを下すのです。
だからこそ、単なる意趣返しとは違う重みがあります。
そして、本作を読み終えて強く感じるのは、二十年前のライナルトと、現在のループレヒトの対比です。
どちらも婚約者以外の女性を愛しました。
けれど、ライナルトは自分の選択によって生じる損害を引き受け、時間をかけて信頼を取り戻しました。一方のループレヒトは、自分の望みを正当化するために婚約者を悪者に仕立て上げ、周囲にすべてを押しつけようとした。
この違いが、物語の結末を決定づけます。
愛を選ぶことが悪いのではない。愛を理由に他人を踏みにじり、責任から逃げることが許されないのです。
ざまぁを楽しみたい読者にとっては、愚かな王子たちが自分の言動によって破滅していく爽快感がたまりません。そして、ヒューマンドラマとして読めば、責任を負うこと、過ちを認めること、失った信頼を取り戻すことの難しさと尊さが心に残ります。
婚約破棄ものの定番を押さえながら、そこに貴族社会の制度と因果応報を組み合わせた、読み応えのある物語です。
「真実の愛」を語るなら、まず自分の選択に責任を持つこと。
その当たり前でいて大切な教訓を、これほど鮮やかに、そして痛快に描いてくれる作品は、婚約破棄・悪役令嬢・ざまぁ好きなら見逃せません。
ぜひ、二十年前の前例がどのように現代の愚か者たちを裁くことになるのか、その顛末を最後まで見届けてください。
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