破滅フラグより恐ろしいのは、家族と婚約者の愛情でした!
悪役令嬢に転生したら、断罪イベントを回避するためにヒロインを避けて、婚約者を避けて、攻略対象たちの好感度を調整して……。
そんな忙しい悪役令嬢ライフ、できれば送りたくありませんよね?
本作の主人公フランシーヌも、まさにそう考えるタイプのお嬢様です。
前世で読んだ小説の世界に転生した彼女は、将来、第二王子シルヴェストルに執着し、ヒロインに嫌がらせをして、断罪の末に命を落とす悪役令嬢。しかも悲劇は本人だけでは終わりません。愛する両親や兄たちまで彼女を救おうとして命を落とし、名門ルヴェリエ公爵家は崩壊。王国まで衰退し、隣国の侵攻を招くという、とんでもない未来が待っています。
五歳の幼女に背負わせるには、あまりにも重すぎる運命!
しかし、フランシーヌは諦めません。自分が死にたくないのはもちろん、大好きな家族が不幸になる未来なんて絶対に認めない。何とかして原作の展開を変えようと決意するのです。
ここまでは、王道の悪役令嬢もの。
ところが、本作の面白さはここからです。
フランシーヌ、なんと、面倒くさがりなのです。
家族を救いたい。未来を変えたい。でも、自分が忙しく動き回るのは嫌。できることなら、なるべく手間をかけずに解決したい。
わかる。わかりますよ、その気持ち!
そこで彼女が思いついたのは、ヒーローを避けることでも、他国に逃げることでもなく、先祖の名を借りた予言書を作ること。未来の災害や疫病、食料不足、そして自分たち一族に降りかかる悲劇を記し、発見した大人たちに対処してもらえばいいのです。
自分で国を救うのではなく、国を救える人たちに情報を渡す。
この発想が実にいい!
しかも、予言書を作るために与えられたスキルが、やたらと高性能。古代語の書写読解から物質生成、物質変化、魔法転写まで、何でもござれです。スキル名に律儀に「超!」がついているのも、思わず笑ってしまいます。
これなら計画も順調に進みそう……と思うじゃないですか。
ところが、最大の障害は別にありました。
お兄様たちです。
長兄マティアスは妹と一緒に過ごしたくてたまらない。次兄ユルリッシュは妹が喜びそうなものを先回りして用意する。三兄ラザールは護身のために剣術まで教えてくれる。そこへ、お茶に誘ってくださるお母様、お菓子を持ってきてくださるお父様、そして何よりもフランシーヌを大切にしているシルヴェストルまで加わります。
皆様、善意しかありません。
妹が寂しくないように。娘が喜ぶように。愛しい子が疲れないように。
ただただ、フランシーヌを幸せにしたいだけなのです。
その結果、予言書を作ろうとするフランシーヌの時間が、見事なまでに消えていく!
昼間は兄たちに誘われ、午後は母とお茶を楽しみ、父のお菓子をいただき、夜になればシルヴェストルに休むよう促される。作業を進めたいのに、相手が大好きな家族だから邪険にもできない。
この攻防が、もう微笑ましくてたまりません。
普通の悪役令嬢ものなら、家族に冷遇されていたり、婚約者に蔑ろにされていたりするところから人生の立て直しが始まることも多いですよね。
でも、フランシーヌは違います。
最初から家族に愛され、婚約者にも溺愛されている。彼女が変えたいのは、愛されていない現状ではなく、愛する人たちを不幸にしてしまう未来なのです。
だからこそ、彼女の行動には切実さがあります。五歳の小さな身体で未来を思い、家族を守るために頑張ろうとする姿には、応援したくなる健気さがあるのです。
そして、作り上げた予言書が発見されると、物語は家族愛だけでなく、国を守るための大きな動きへと広がっていきます。
国王や王后、父クリストフをはじめとする大人たちは、予言の内容をただ盲信するのではなく、真贋を調べながら必要な対策を進めます。堤防の補強、貯水施設の整備、食料の備蓄、疫病への備え。フランシーヌが記した情報をもとに、王国全体が少しずつ未来への準備を整えていくのです。
ここがまた、いいんです!
災害そのものを魔法で消し去るのではなく、被害が出る前に備える。誰かが劇的な活躍をするために悲劇を待つのではなく、悲劇を未然に防ぐために人々が動く。
フランシーヌの「後は大人の皆様にお任せですわ!」という精神が、結果的に国全体を救うことにつながっていくのです。
そして迎える、学院入学後の展開。
原作のヒロインであるマノンは、シルヴェストルと恋に落ち、災害や疫病を通して絆を深めるはずでした。しかし、現実は原作どおりには進みません。
シルヴェストルには、幼い頃から大切にしてきた婚約者フランシーヌがいます。彼は彼女を避けるどころか、忙しい公務の合間にも会いに行き、彼女との約束を大切にし続けます。
一方、マノンは自分が物語のヒロインであるという意識から抜け出せず、思い描いた展開にならない原因を周囲に求めてしまいます。
そして、フランシーヌに詰め寄り、転倒をきっかけに周囲の目の前で問題を起こすことに。
ここで気持ちいいのは、フランシーヌが自分の手で派手な復讐を仕掛けるわけではないことです。
彼女を守るために、家族が動く。目撃者から話を聞き、事実を確認し、学院や王家の関係者が正式に対応する。マノンのこれまでの言動も調査され、最終的には王都を離れる処分が下されます。
自分をヒロインだと思い込んでいても、現実の世界では自分の行動に責任を取らなければならない。
原作の筋書きに頼る少女と、現実の人々を信頼して未来を変えた少女。その対比が、物語の結末をいっそう鮮やかにしています。
これぞ、なろう系で味わいたい「ざまぁ」の醍醐味!
しかも、フランシーヌ自身は最後まで、周囲に頼ることを悪いことだとは考えていません。
自分一人ですべてを背負うのではなく、信頼できる人たちに任せる。自分にできることをしたら、あとは専門家に任せて、安心して暮らす。
これって、実はとても素敵な生き方ではないでしょうか。
そして恋愛面でも、シルヴェストルの一途さは見逃せません。
彼はフランシーヌが五歳の頃から彼女を大切にし、婚約を申し込んでも父や兄たちに何度も断られながら、決して諦めません。なんと十年間、毎月一度の婚約交渉を続けるという執念ぶり!
愛する女性を幸せにしたい王子様と、愛娘を簡単には手放したくない父親。そして妹を溺愛する兄たち。
婚約成立までの道のりが、もはや恋愛というより家族総出の長期戦です。
それでも、シルヴェストルが最後に望むのは、フランシーヌを自分のものにすることだけではありません。彼女が実家にいつでも帰れること、家族とのつながりを失わずにいられることまで大切にしてくれるのです。
月に二十回の里帰りを約束する婚約者なんて、なかなかいませんよ!
恋愛ものとしての甘さはもちろん、家族愛を重視する読者にもたまらない展開です。
破滅フラグを折るために始めた行動が、結果的に家族の絆を再確認し、婚約者との愛情を深め、王国の未来まで守ることにつながっていく。
本作は、そんな優しい幸福の連鎖を描いた物語です。
悪役令嬢ものが好きな方、溺愛されるヒロインが好きな方、家族に愛される主人公が好きな方。そして、理不尽な相手にはきちんと相応の結果が返ってくる「ざまぁ」が好きな方。
ぜひ、フランシーヌの物語を読んでみてください。
彼女が望んだのは、世界を背負う英雄になることではありません。
大好きな家族と、大好きな婚約者に囲まれて、無理をせず幸せに暮らすこと。
その願いを叶えるために、彼女は未来を変えました。
そして、彼女を愛する人たちは、そんな彼女をこれからも全力で甘やかしてくれることでしょう。
回避行動なんて取りません。だって、逃げなくても幸せになれるのですから!
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