元王太子妃の持参金は、元夫のものではありません――有能な妻を手放した男に待っていた、当然すぎる因果応報!
「お前を愛することはない」
結婚初夜、夫となった王太子からそんな言葉を告げられたら、あなたならどうしますか?
泣いて縋る? 夫の愛を取り戻そうと努力する? それとも、夫を見返すために華麗な復讐を計画する?
本作の主人公、エヴェリーナ・ライラ・レンネゴードは、そのどれでもありません。
彼女が選んだのは、王太子妃としての務めをきちんと果たし、必要な引き継ぎを済ませたうえで、夫との婚姻を解消すること。
そして、その選択が、あまりにも自分勝手な元夫の人生を根底からひっくり返していくのです。
いやもう、タイトルからして最高ではありませんか!
■ 有能な妻がいたからこそ、無能な夫は王太子でいられた
エヴェリーナは、公爵令嬢として幼い頃から王太子妃になるための教育を受けてきた女性です。
学問、政治、経済、外交儀礼、領地経営。身につけるべき知識を着実に習得し、婚約者だったヨナタンの苦手な分野まで支えてきました。
一方のヨナタンは、第一王子という立場に甘え、自分が努力しなくても周囲が何とかしてくれると思っている人物。
勉強も公務も面倒なことは後回し。自分より優秀な婚約者に助けられているというのに、感謝するどころか、彼女の能力を面白く思っていません。
そして、そんな彼が学園で出会ったのが、何をしても褒めてくれるトーヴァです。
自分の怠慢を指摘するエヴェリーナより、何も注意せずに持ち上げてくれるトーヴァのほうが心地よい。そんな理由で彼女に夢中になり、結婚初夜には正妻に「愛することはない」と宣言するのです。
……いや、ちょっと待ってください。
あなたが王太子として恥をかかずに済んでいたのは、誰のおかげだと思っているんですか!?
この物語の痛快なところは、ヨナタンが単に女性の扱いを間違えた男ではない、という点です。
彼は、自分を支えてくれていた人間の価値を理解できなかった。妻の仕事を仕事として認識せず、整えられた環境を当たり前のものだと思い込んでいたのです。
だからこそ、エヴェリーナがいなくなった後に何が起きるのか。その答えを見届けるのが、たまらなく楽しみになります。
■ 三年間の準備。そして、王太子妃の静かな決断
エヴェリーナは、夫に拒絶されたからといって、感情のままに王太子妃の責務を放り出したりはしません。
父や弟たちに相談し、王家とも調整を進め、次代を担う第二王子ユーリウスと、その婚約者クリステルへの引き継ぎを着実に進めていきます。
ここが本当に好きです。
彼女は夫を失脚させるために陰謀を巡らせているわけではありません。自分の仕事を最後までやり遂げ、そのうえで自分の人生を取り戻そうとしているのです。
しかも、エヴェリーナの家族が素晴らしい!
父は娘の努力を理解し、兄ヴィルマルは元夫の愚かさに容赦なく呆れ、弟エーリクは領地を堅実に管理する。それぞれが自分の役割を果たし、エヴェリーナを支えています。
特に、彼女が家族のもとへ帰ったときの「おかえり」という温かさには、ほっとさせられます。
王太子妃として誰かを支え続けた女性が、今度は自分を大切にしてくれる人たちに迎えられる。
この安心感こそ、本作のヒューマンドラマとしての魅力でしょう。
そして三年後、ヨナタンは自分から離婚を申し出ます。
子がいないことを理由に、妻を実家へ帰せばよい。これで愛するトーヴァを正式な王太子妃に迎えられる。そう考えていた彼は、まさか自分自身の立場まで変わるとは思っていませんでした。
ところが、王家にはすでに次代への準備が整っていたのです。
ヨナタンが知らないところで、エヴェリーナはきちんと次の時代を用意していました。
この展開、まさに「あなたが何もしなかった三年間、周囲はちゃんと仕事をしていましたよ」という痛烈な答えになっています。
■ 持参金も領地も、あなたのものではありません!
さあ、ここからが本作のざまぁの見せ場です。
王太子の地位を失ったヨナタン。それでも彼は、まだ希望を捨てていません。
エヴェリーナと離婚しても、持参金や王太子妃領は自分の手元に残るはず。そうなればトーヴァに贅沢な暮らしをさせられる。彼はそう信じていたのです。
ところが、現実は違いました。
持参金は婚姻時の取り決めに従ってレンネゴード公爵家へ返還。王太子妃領も元の所有者側へ戻されます。
しかも、契約書にはヨナタン自身の署名があるのです。
説明されていなかったのではありません。彼がまともに読んでいなかっただけ。
自分では何も確認せず、妻の資産を当然のように自分のものだと思い込み、その財産を愛する女性に与えるつもりでいた。そんな男に待っていたのは、あまりにも見事な現実でした。
トーヴァもまた、手に入ると思っていた宝石やドレス、華やかな生活が夢に終わったと知り、ヨナタンを責め立てます。
「三年間も待ったのに、どういうことなの!?」
そんな二人の姿を見ていると、思わず「そりゃそうなるでしょうよ!」とツッコミを入れたくなります。
自分たちの都合のよい未来ばかりを思い描き、肝心なことを何も確かめなかった二人。いざ現実を突きつけられると、相手を責めることしかできません。
愛情も地位も財産も、手に入ると信じていたものが次々と崩れていく。
これぞ、積み重ねてきた身勝手さが自分に返ってくる因果応報です!
■ 元夫の没落よりも、ヒロインの新しい人生が嬉しい
もちろん、ざまぁ好きとしては、王太子から男爵へと転落したヨナタンのその後も見逃せません。
辺境の小さな領地では、帳簿を読むのも、支出の妥当性を判断するのも、領民の陳情に対応するのも自分の仕事です。
これまでエヴェリーナが整えてくれていたものを、今度は自分で整えなければならない。
しかし、長年努力を避けてきた彼に、いきなり領地経営ができるはずもありません。
トーヴァもまた、夢見ていた王太子妃の暮らしを手に入れられず、不満を募らせていきます。
二人が互いの都合のよい部分しか見ていなかったことが、立場を失った後に明らかになるのです。
けれど、本作で一番心に残るのは、元夫がどれだけ困窮したかということだけではありません。
エヴェリーナが、もう元夫のことを考えなくてもよくなったこと。
これが何より嬉しいのです。
彼女は家族と穏やかな時間を過ごし、読書を楽しみ、行きたい場所を考え、領地の発展を見守ります。王太子妃だった頃には当然のように奪われていた、自分自身のための時間を取り戻したのです。
そして、弟ヴィルマルに「ヨナタン殿下に後悔してほしいとは思いませんか」と尋ねられたとき、彼女は答えます。
後悔するかどうかは、ヨナタン自身の問題。自分は自分の人生を大切にしたい、と。
この言葉に、エヴェリーナという女性の強さが詰まっているように感じました。
復讐のために生きるのではなく、元夫を見返すことに人生を費やすのでもなく、自分の人生を自分で選び直す。
それこそが、彼女にとって本当の勝利なのです。
■ 有能なヒロインと、最後まで自分の愚かさに振り回される元夫
有能なヒロインが不遇な結婚から解放され、身勝手な元夫には相応の報いが訪れる。
そんな異世界恋愛・ざまぁ作品が好きな方なら、きっと気持ちよく読める一作です。
エヴェリーナは、誰かを陥れることなく、自分の務めを果たし、家族に支えられながら新しい人生へ進みます。一方のヨナタンは、自分を支えてくれていた女性の価値を理解できないまま、地位も財産も失っていく。
この対比が実に鮮やかです。
そして何より、読み終えたときに残るのは、元夫への怒りよりも、エヴェリーナがようやく手に入れた穏やかな日々への喜びでした。
誰かに愛されなかったからといって、その人の価値が失われるわけではない。
誰かに必要とされることと、自分の人生を誰かに捧げ続けることも、同じではない。
そんなことを、エヴェリーナの生き方が静かに教えてくれます。
さあ、あなたも一緒に見届けませんか?
自分を支えてくれた有能な妻を手放した元王太子の末路と、ようやく自分の人生を歩み始めた「月の姫君」の物語を。
元王太子妃の持参金は、元夫のものではありません。
そして、元王太子妃の人生もまた、元夫のものではないのです。
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