「サバサバしてる」と「礼儀知らず」は違います! 勘違い令嬢を叩き斬る、有能女騎士の痛快ざまぁ!
「自サバ女」という、現代でも見かける厄介なタイプを異世界の騎士社会に持ち込んだ、痛快な婚約破棄&ざまぁもの。
いやもう、シャロンが格好いい! そして、ジェマとカールの勘違いっぷりが見事なまでにひどい!
最初から最後まで、読んでいて「そうそう、それが言いたかった!」と頷きたくなる作品でした。
物語の主人公は、キンバリー侯爵家の嫡女シャロン。王太子妃殿下の護衛騎士として働く、実力も知識も兼ね備えた女性です。
そんな彼女が耳にしたのは、「自分はサバサバしているから、女同士の付き合いは苦手。男といるほうが気楽」という女性たちの噂。
そして、まさにその噂を体現したような少女、ジェマと対面することになります。
婚約者カールとのお茶会に、遠慮なく割り込んでくるジェマ。挨拶も礼儀もそっちのけで、カールにべったりとくっつき、シャロンに対しては「女って面倒」「嫉妬して難癖をつけてくる」と、あからさまに敵意を向けてきます。
しかも、そんなジェマを咎めるどころか、彼女を庇い、婚約者であるシャロンのほうを責めるカール。
……うん、これは駄目だ。
ジェマの無礼さもさることながら、婚約者を軽んじ、自分の立場すら理解していないカールの残念さが際立っています。
そもそも、シャロンは侯爵家の跡取り。カールは婿入りする立場です。しかも、騎士としての実力も努力も足りていない。
それなのに、なぜか自分のほうが立場が上だと思い込み、シャロンが自分に惚れ込んでいると信じて疑わないのですから、もはや呆れるしかありません。
この作品の気持ちよさは、そんな二人に対して、シャロンが感情的になって騒ぎ立てるのではなく、終始冷静に対応するところにあります。
礼儀知らずには礼儀を説き、勘違いには事実を突きつける。
そして、必要とあらば実力行使も辞さない。
カールの喉元に短剣を突きつける場面など、それまでの優雅な淑女然とした振る舞いとの落差も相まって、実に鮮やかです。
なにせ、シャロンはただの侯爵令嬢ではありません。若くして王太子妃の護衛を務める、イキシア騎士団第二部隊長なのです。
自分が何者なのかも知らずに、シャロンを見下していたカールとジェマ。二人がその実力と立場を思い知らされる展開は、まさに「知らなかったのはあなただけ」というざまぁの醍醐味。
特に好きなのが、シャロンがジェマに女性騎士の役割を説く場面です。
ジェマは、女性でありながら男のように振る舞う自分を誇りに思い、女性同士の付き合いを嫌い、礼儀作法を堅苦しいものとして切り捨てています。
けれど、シャロンにとって、それはサバサバしていることとはまったく別の問題なのです。
無礼であることと、さっぱりした性格であることは違う。
この一点を明確にしてくれるのが、本作の大きな魅力だと思います。
自分のことを「男みたいなもの」と称しながら、実際には男性に媚び、女性を見下すジェマ。その言動は、本人が主張するサバサバした性格とは正反対です。
しかも、彼女が目指しているのは、女性王族の護衛を担うイキシア騎士団。
そこで求められるのは、単に剣を振るう能力だけではありません。礼儀作法や話術、社交の場での振る舞い、そして女性を守る立場としての理解も必要です。
ドレス姿でも戦えるように鍛え、女性ならではの視点を生かし、男性騎士だけでは届かない部分を補う。それが女性騎士の役割なのだと、シャロンは語ります。
ここがいい!
「女性だから男性と同じように振る舞わなければならない」という話ではなく、女性であることを否定せず、その特性を理解したうえで技術を磨くことが大切なのだと教えてくれるのです。
シャロンの言葉には、現場で実際に働き、努力を重ねてきた騎士としての誇りがあります。
女性らしさを押しつけるのでも、男性らしさを否定するのでもない。必要なのは、自分の役割を理解し、相手を尊重し、求められる能力を身につけること。
ジェマのような人物に対して、単に「嫌な女だから駄目」と切り捨てるのではなく、なぜその態度では騎士として務まらないのかを具体的に説明してくれるところに、シャロンの有能さが表れています。
もちろん、説教だけで終わらないのも本作のいいところ。
カールとジェマは、シャロンの言葉を受け止めるどころか、最後まで自分たちに都合のいい理屈を振りかざします。
しかし、現実は甘くありません。
騎士学校での成績や素行、騎士としての適性。そうした積み重ねが、最終的に二人の進路を決定づけます。
婚約を白紙撤回されたカールは、望んでいた立場を失い、最終的には領地の守備隊で一兵士に。一方のジェマも、憧れの騎士団に入ることはできず、一般兵士として働くことになります。
そして、男性に媚びるばかりで女性を見下していたジェマの末路は、本人が思い描いていたものとは程遠いものに。
ここで重要なのは、二人がシャロンに嫌われたから破滅したわけではない、ということです。
カールは努力を怠り、婚約者を軽視し、自分の立場すら理解していなかった。ジェマは騎士として必要な知識も礼儀も身につけず、他人を見下すことばかりに熱心だった。
つまり、自分たちの行動の結果として、自分たちの望む未来を手放したのです。
この因果応報こそ、ざまぁ好きにはたまりません。
さらに、物語の締めくくりも爽快です。
シャロンは有能な騎士として仕事を続け、王太子妃殿下の紹介で近衛騎士と結婚。公私ともに充実した生活を送ります。
彼女が得たのは、単に駄目な婚約者との縁を切ったことだけではありません。自分の実力を正しく評価してくれる環境で働き、同じ志を持つ仲間と切磋琢磨し、互いを尊重できる相手と人生を歩む未来です。
そして、あの日のカフェでシャロンが語った女性騎士の役割は、ほかの騎士候補生たちにも広がっていきます。
自サバ女が現れても、周囲が黙って耐える必要はない。自分たちで問題点を理解し、論破し、必要なら改心を促すこともできる。
シャロンの言葉が、彼女一人の勝利にとどまらず、後輩たちの意識まで変えていくのが素敵です。
個人的には、冒頭とラストに登場するゴマ鯖も好きなポイント。最初は「地サバ」という言葉を魚の話だと思い込むシャロンの天然ぶりに笑わされ、最後には領地の特産品を夫と味わう穏やかな日常へとつながります。
騎士としての凛々しさと、こうしたちょっとした可愛らしさのギャップも、シャロンという主人公の魅力ですね。
全体として、勘違い令嬢と残念な婚約者を、実力と正論で鮮やかに退ける婚約破棄もの。そして、それ以上に、仕事への誇りと役割を果たすことの大切さを描いたヒューマンドラマでもあります。
自サバ女にイライラした経験がある方、無能な婚約者が自滅するざまぁを読みたい方、有能で凛とした女性主人公が好きな方には、ぜひ読んでいただきたい一作です。
「サバサバしている」と「ただ無礼なだけ」は違う。
その当たり前のことを、シャロンが騎士としての実力と誇りをもって示してくれる。読後には、すっきりとした爽快感と、真面目に努力する人がきちんと報われることへの心地よさが残る作品でした。
コメント