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夢見る仔猫の雑記帳

創作サイト『夢見る仔猫』の雑記帳

王太子妃になると思ってたら女男爵になった話

王太子妃を夢見た少女が手に入れたのは、領地と現実と、ちょっとズレた王子様!?

「王太子妃になって贅沢三昧!」――そんな夢を抱いていた男爵令嬢アビーが、恋を成就させた結果、なぜか女男爵として領地を治めることになるお話です。

タイトルからして、もう面白い。

王子様との恋、婚約解消、真実の愛、そして身分違いの恋。なろう系異世界恋愛でおなじみの要素がそろっているのに、いざ蓋を開けてみれば、待っているのは王宮での華やかな生活でも、恋敵への痛快なざまぁでもありません。

待っていたのは、貴族社会の厳しい現実でした。

主人公のアビーは、良くも悪くも自分の欲望に忠実な女の子。王太子の第一王子であるギルバートと恋に落ち、彼が婚約を解消してくれたことで、いよいよ自分も王太子妃になれる! と期待に胸を膨らませます。

ところが、ここで飛び出す衝撃の事実。

「俺、王位継承順位、兄弟の中で一番下なんだよね」

……えっ?

第一王子なのに?

そう、アビーは知らなかったのです。この国では王位継承順位が生母の出自によって決まり、ギルバートは王太子の長男でありながら、王位を継ぐ立場にはなかったのだと。

しかも、彼には彼なりの事情がありました。将来は平民になるはずだったこと、貴族社会に残るには有力な家へ婿入りする必要があること、そして本来の婚約者である侯爵家の跡取り娘ヴィヴィアンが、家を継ぐにふさわしい優秀な女性だったこと。

アビーが夢見ていた王子様との恋物語は、彼女の知らないところで、すでに貴族社会の事情によって結末が決まっていたようなものなのです。

この作品の面白さは、アビーの無邪気さと、彼女を取り巻く世界の現実との温度差にあります。

アビーは王宮での礼儀作法にも、貴族としての立ち回りにも疎い。お辞儀の角度やカップを持つときの小指の角度を気にするより、小麦が豊作になったり牛の乳の出がよくなったりすることのほうが大事だと思っているのです。

いや、気持ちはわかる。わかるけれども!

王族の妻になろうという人間が、それでいいのか!?

読んでいるこちらは思わずツッコミを入れたくなります。

しかし、アビーの価値観は、彼女が生まれ育った男爵領では必ずしも間違いではないのでしょう。王都の貴族社会で求められる能力と、領地を運営するうえで必要な能力は別物。華やかな宮廷生活に憧れる彼女が、その世界に向いているとは限らないのです。

そして、ここで存在感を発揮するのがヴィヴィアン。

アビーにとっては、恋敵であり、自分が婚約者の座を奪った相手。しかし実際には、侯爵家の跡取りとして優秀で、貴族としての責任も理解している女性です。

ギルバートとの婚約解消によって傷つけられた立場でありながら、男爵領への制裁を取りやめるよう父親を説得するなど、その振る舞いは実に立派。

恋愛小説によくある、主人公をいじめるだけの悪役令嬢ではありません。むしろ、アビーが知らない貴族社会の常識を、身をもって体現している人物なのです。

だからこそ、アビーの母親と兄が彼女の恋人関係を知って家を離れたことや、周囲の貴族たちが二人の交際を問題視していたことにも、妙な説得力があります。

アビーは恋を手に入れたつもりだったけれど、その恋が家族や領地にどのような影響を与えるのか、まるで理解していなかった。

そして、ギルバートもまた、王子様という肩書きだけで生きているわけではありません。

彼は自分の立場を理解し、アビーにも現実を説明します。彼女に王族の妻は務まらないと率直に告げながらも、領地を治める女男爵としてなら、きっとやっていけると考えているのです。

ここがまた、なんとも絶妙。

アビーの夢を打ち砕くようなことを言っているのに、本人はいたって真面目。彼女と結婚するのだから、彼女の実家に婿入りする。それが当然だと思っているのですから。

王位も、王妃の座も、華やかな暮らしも手に入らない。それどころか、慰謝料の支払いによって二人の財産は大きく減ってしまいます。

それでも、ドレスや宝石を売り、そのお金を将来の領地のために蓄えようとする二人の姿には、どこか微笑ましさがあります。

……最初からそういうことを考えられていたら、もっと違う未来もあったのでは? というツッコミは、ひとまず置いておきましょう。

本作は、いわゆる「ざまぁ」を期待して読むと、少し違った味わいがあります。

誰かが派手に破滅したり、主人公が華麗に復讐したりするわけではありません。むしろ、主人公が自分の認識の甘さを突きつけられ、周囲の人々が当然のように理解している常識を、ひとつずつ知っていくお話です。

アビーは最後までどこか能天気で、貴族令嬢としては非常識なところもあります。それでも、彼女なりに現実を受け入れ、ギルバートと一緒に新しい生活へ進んでいく。

王太子妃になれなかったからといって、恋が失敗したとは限らない。華やかな宮廷生活を送れなくても、領地を守り、暮らしを築いていく未来だってあるのです。

王子様との恋が、王妃への階段ではなく、領地経営への入口だったという意外性。そして、恋愛の陰に隠れていた貴族社会の事情が明らかになるにつれて、タイトルの意味がじわじわと染みてくる構成が魅力的です。

王太子妃になれると思っていたら、まさかの女男爵。

けれど、隣には愛する人がいる。

果たしてこれは、夢破れた少女の物語なのか。それとも、身の丈に合った幸せを手に入れる物語なのか。

アビーのあっけらかんとした語り口に笑いつつ、貴族社会の常識と人間関係の奥深さも味わえる一作です。

派手な断罪劇よりも、主人公の勘違いが明らかになっていく過程や、恋愛ファンタジーの裏側にある現実的な事情を楽しみたい方におすすめ。

そして何より、王子様と結婚できたからといって、必ずしもお姫様になれるとは限らないのです。

アビーには、ぜひ女男爵として頑張っていただきたい。

……ただし、領地経営までギルバート任せにしないようにね!

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