これは、失われた王国を取り戻す物語。そして、自分の居場所を見つける物語。
最初は、魔族が蔓延る世界で仲間たちと冒険する王道ファンタジーかな、と思って読み始めました。
ところが、読み進めていくうちに気付けば、すっかり物語の世界に引き込まれていました。
だって、この作品、ただ強い主人公が敵を倒していくだけのお話じゃないんです。
国を奪われた王家の悲劇、20年ものあいだ受け継がれてきた忠誠、種族を超えた友情、そして本人さえ知らない宿命を背負った青年が、自分自身の意志で未来を選び取っていく物語なんです。
もう、この手の「実はすごい血筋でした」という展開が好きな人には、ぜひ読んでほしい!
物語の始まりは、善王ディルムドの治めるフィアナ王国。
幸せな王家を襲ったのは、王の従兄オグミオスの反乱でした。魔族と手を結んだ彼は王を殺し、王位を簒奪。正統な王家に忠誠を誓う者たちは散り散りとなり、王国は長い暗黒時代へと突入します。
そして20年後。
舞台は変わり、主人公イディオフィリアは、祖父と暮らした島を離れ、冒険者として新しい人生を歩み始めます。
この主人公がいいんです!
本人はごく自然体。自分が特別な存在だなんて思っていないし、偉ぶることもない。目の前の仕事に真面目に取り組み、仲間を大切にし、困っている人がいれば手を差し伸べる。
けれど、その人柄と行動力が、少しずつ周囲の人々を惹きつけていくんです。
一緒に冒険する仲間たちとの関係も魅力的です。
豪快な友人たちとの掛け合いには思わず笑ってしまうし、実力者たちが主人公を支えながら成長を見守る姿には、温かい気持ちになります。
何より好きなのは、イディオフィリアが相手の身分や肩書きではなく、その人自身を見ているところ。
だからこそ、彼の周りには自然と人が集まってくるのでしょう。
そして、忘れてはいけないのがソルシエール!
圧倒的な魔力を持つ大賢者であり、冒険者としても超一流。それなのに、師匠のベルトラムとは口喧嘩ばかり。伝説級の人物たちが繰り広げるやり取りが、いちいち面白いんです。
普段は豪快で口も悪いのに、いざというときには頼りになる。しかも、主人公のことをずっと気にかけ、危険から守り、成長を促している。
この人、強いだけじゃないんですよね。
主人公が自分の力で歩けるように、時には手を貸し、時にはあえて経験させる。その振る舞いから、彼女がどれほど主人公を大切にしているのかが伝わってきます。
さて、ここからが本作のたまらないところ。
イディオフィリアは、ただの冒険者ではありません。
20年前に殺された善王ディルムドの息子。すなわち、正統な王位継承者だったのです。
本人が知らないところで、彼を守るために多くの人々が動いていました。
王の遺志を継ぐ者。代々王家に仕えてきた騎士の家系。幼いころから主人公の宿命を知り、再会の日を待ち続けていた人々。
その中でも、パーシヴァルの存在には胸が熱くなりました。
彼は単に王子だから忠誠を誓っているのではありません。主人公が生まれたときから傅役として任じられ、長い年月を経て、ようやく再会を果たすのです。
20年ですよ、20年。
そのあいだ、王家は滅びたまま。正統な王子が生きていることすら、誰もが知っているわけではない。
それでも忠誠を捨てず、来たるべき日に備えていた人々がいる。
こういう、長い時間をかけて積み重ねられた想いに弱いんです……!
そして、主人公が自分の正体を知ったときの場面。
王子だと判明したからといって、周囲の仲間たちとの関係が壊れるわけではありません。
むしろ、友人たちは「お前が何者であれ親友だ」という態度を変えない。
この場面、本当に好きです。
血筋も宿命も大切。でも、それ以上に、これまで一緒に過ごしてきた時間がある。
王子だから友人になったのではなく、イディオフィリアだから友人になった。
彼がずっと求めていた「自分は何者なのか」という問いに答えが与えられる一方で、「自分を自分として受け入れてくれる人がいる」という喜びも描かれているんです。
これぞヒューマンドラマ!
もちろん、ざまぁ好きとしても今後の展開に期待せずにはいられません。
王を殺し、正統な王位を奪い、魔族の力を背景に国を支配してきたオグミオス。
その支配によって人々は苦しみ、王に忠誠を誓った者たちは命を落とし、あるいは身を隠すことを余儀なくされました。
そんな簒奪者に対し、20年の時を経て、正統な王子が立ち上がろうとしているのです。
しかも、ただ王位を取り戻すだけではありません。
魔族が現れる原因を断ち、国を本来の姿に戻し、民を守る。そのために必要なのは、個人の武力だけではなく、人々の信頼と協力です。
主人公自身も、戦う理由を少しずつ自分の中で見つけていきます。
誰かに宿命を押し付けられたからではなく、自分が何を望み、何を守りたいのかを考えながら。
だからこそ、いずれ訪れるであろう王位奪還の瞬間が楽しみで仕方ありません。
長年忠誠を尽くしてきた人々が報われる日。正統な王家を裏切った者たちに裁きが下る日。そして、奪われた平穏を取り戻す日。
そのとき、どれほど胸のすく展開が待っているのか。
さらに、物語には世界の崩壊に関わる壮大な預言もあり、主人公とソルシエールに託された宿命が、これからどう結びついていくのかも気になります。
恋愛についても、ソルシエールとイディオフィリアの関係が気になるところ。
互いを信頼し、背中を預けられる関係。主人公を守りながらも、その成長を見守る彼女と、彼女を尊敬し、頼りにする主人公。
周囲の人物たちも含め、さまざまな絆が描かれているからこそ、この先、二人の関係がどんな形になっていくのか楽しみです。
本作の魅力は、壮大な世界観や魔族との戦いだけではありません。
主人公の知らないところで受け継がれてきた願い。何十年も変わらない忠誠。身分を超えた友情。そして、自分の運命を知った青年が、誰かに命じられるままではなく、自分の意志で未来を選ぼうとする姿。
そのすべてが合わさって、物語に厚みを与えています。
強い主人公が敵を倒してスカッとする展開が好きな方も、誠実な人物が周囲から認められていく物語が好きな方も、長年の苦労が報われる瞬間に胸を熱くする方も、きっと楽しめるはず。
個人的には、主人公が王子として認められることそのものよりも、彼を守り続けた人々の想いが報われる瞬間を見たいです。
そして、いつかイディオフィリアが正統な王として立つ日が来たなら。
その場には、彼とともに歩んできた仲間たちがいて、20年間待ち続けた人々がいて、彼自身が選んだ未来がある。
そう思うと、これからの展開への期待が膨らみます。
『聖騎士の末裔』。
これは、王位を取り戻すための戦いであると同時に、失われた絆を取り戻し、人々の想いを未来へとつないでいく物語なのだと思います。
続きが気になる、という言葉では足りないくらい、イディオフィリアたちの行く末を見届けたくなる作品です。
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